第11話

「300メートル先、渋滞が出来ています。迂回ルートを表示をします。」

くそっ、何だって?

目の前には青い線で描かれたルートが現れる。

ルートは俺に交差点を左へ曲がれと言っていた。

こんな猛スピードで曲がり切れるかよっ。

「アシストモードを起動します。」

凛の声が聞こえたと同時に勝手にハンドルが左へと曲がっていく。

「ちょっ、うわぁぁぁぁぁあっ!!!???」

俺は情けない声を上げながら、バイクと一緒に左へと曲がって行った。

何とか凛のおかげで曲がり切ることが出来たが、寿命が百年は縮んだ。

「はぁ…はぁ…こいつは正気なのかっ!!!ってそんなことよりもスピードスターはっ?」

あまりの出来事に声が上ずってしまう。

「まだ凛は未完成だからしょうがないだろう。それとスピードスターだがずっと真後ろについて来ているっ。何とかこっちで近づけさせないように邪魔をしているが……頑張ってくれっ。」

「頑張れってっ、こっちは奴に気を回す余裕なんてないんだっ。お前が何とかしてくれっ。」

後ろなんて振り返っている余裕なんてものはないっ。

こっちは精神をすり減らしながら、道を走っていんだっ。

「なぁっ、もうここら辺で追いかけっこはやめにしようよ、これ以上走ったって僕の体力を減らすことなんて出来ないんだしさっ。それに君のその…バイク…燃料が尽きるまでこうして僕と追いかけっこしてるつもりかい?」

奴が何か話しかけてくるが、風の音が大きすぎて何を言っているのか、聞き取ることができなかった。

「なんだってっ???」

「聞いてなかったのかい…だからっ、いつまで走っているつもりだって言ったんだよっ!!!」

「聞こえないっ!!!!」

「あ〜っ、もうっ。」

本当に彼奴が何を言っているのか、聞き取ることができなかった。

どうせ、大したことは言っていないのだから気にしなくても平気だろう。

「後方上空からフェザーが接近中。回避モードへ移行します。」

「はっ?」

突然、バイクの左側からシュッと音が聞こえ、次の瞬間、炎のようなものを吹き出し横移動を始める。

「うぉぉおぉぉっ!?」

その瞬間、隣で爆発が起き、バイクがぐらついた。

「今度はなんなんだっ!!!」

画面の片隅にフェザーの姿が写り込む。

「敵の援軍が到着したようです。名前はフェザー、身長は「いらん説明なんてしんくてもいいっ!!!後、画像をすぐに消せって気が散るだろうがっ!!!」

「申し訳ございません。」

凛が謝ると画面に表示されていた画像が消される。

ジョウは優秀なパートナーと言ってはいたが俺にはただのポンコツにしか思えない。

ある程度。フェザーが来ることも予想の範囲内だった。

大抵、奴が現れるときはフェザーも現れることが多かったためだ。

「やはりフェザーも現れるか…大丈夫なのか?」

「知らんっ。俺にはそんな余裕なんてないっ!!!お前が後ろのをなんとかしてくれって言ってるだろっ!!!」

背後から微かに話し声が聞こえてくる。

その瞬間、突然またバイクのハンドルが勝手に曲がり出した。

必死にバイクから吹き飛ばされないようにしがみつきながらなんとか耐え忍ぶ。

「ぐっううっ!!!!」

そして、完全に曲がり切るとまた、バイクは真っ直ぐ前を走って行く。

「凛っ、曲がるときは事前に曲がるって言えっ!!!!」

「申し訳ございません。以後、気をつけます。」

心のない返事を聞き、少しイラっとするが、こいつの改良は全てを終わった後にジョウに頼むことにする。

それからもしばらく奴等とのハイスピードな追いかけっこが続くが、一向に目的地へと向かう様子がなかった。

そして俺はあることに気づいた。

「凛っ、さっきから同じ道を走ってないかっ?一瞬、見えたあの看板、さっきも見た気がするんだが。」

「はい、ルートを変えながら今、5周ほどしています。この通りはその中でも三回は通りました。」

「なんだとっ!?違う、奴は現れたんだっ。すぐに目的地へと向かうように設定を変更しろっ!!!」

なんてポンコツなAIなんだっ。

まさか、同じ場所を5周もしていたなんてっ。

「設定を変更します。…問題が発生しました。」

「問題だとっ?」

「警察に殆どの道路を閉鎖され、一つしか道が残っていません。」

ふざけるなっ、同じ場所をぐるぐると回された次は道を塞がれただとっ。

「なんとかしろっ!!!」

「迂回ルートを検索しています…。ルートを発見…しかし、…本当にそこへ行きますか。」

「どの道、そこしか道がないんだろっ?それならそこを突破するっ。」

「了解しました。ルートを表示します。」

まったく…絶対に後でジョウにこいつを改良するように言ってやる。

「曲がります。」

凛の声と同時にハンドルが右へ曲がる。

「おぉうっ!!!」

そして、狭い路地に入ると障害物を御構い無しに進んで行く。

何回かゴミを吹き飛ばしながらバイクは走って行き、俺のマスクには新聞紙のゴミが張り付いていた。

急いで新聞紙を取り除くと次に視界に入ってきたものはパトカーに塞がれていた道だった。

「お前…まさかっ!!!」

「行きます。」

凛はあのパトカーに塞がれた道を超えるつもりらしい。

とても正気の沙汰じゃない。

「お前っ、本当にこれを超えられるのかっ?」

「確率は35パーセントです。それとこれを突破するにはノワール様のお力も必要です。」

「俺の力っ?」

「はい、私が合図をしたら、ブーツの機能を最大限まで溜めてそしてブーストをかけてください。」

要するにあれを飛び越えるってことか。

ますます、不安になってしまった。

だが、もう後戻りはできない。

「くそっ、わかったっ。だけど、絶対にしくじるなよっ。」

「お任せください。」

目の前のパトカーの後ろに隠れている警官が一斉にこちらへ銃を向ける。

一応、服の下にコスチュームを着てはいるが…それでも不安なのは変わりない。

だが、そんなこと御構い無しに凛はバイクを走らせた。

「構えっ!!!撃てっ!!!」

警官の一人がそう叫ぶと一斉に発砲された。

精一杯の抵抗で体を小さく屈めるが、何発か体に当たり痛みが伝わり、顔を歪める。

そして気づけばパトカーの目の前まで来ていた。

「準備はよろしいですね。……今です。」

ブーツの機能を作動し、走りながら溜めていた力を解き放つ。

するとバイクはボンッと音を立て、空を飛ぶとパトカーと人の上を飛び越え、地面へと着陸した。

「よしっ!!!!」

そしてまた何事もなかったかのようにバイクは先へと走り出す。

「よしよしよっしっ!!!!良くやったぞっ!!!後は奴らを目的地まで連れて行くだけだ。」

「ありがとうございます。ではまたルートを表示します。」

なんとか俺達はパトカーの包囲網を突破し、奥の道へと進むことができた。

そして後は、後ろにいるスピードスターを目的地まで運ぶだけだった。

「ジョウ、聞こえるかっ。ノーネームに準備させといてくれ。後、30分で目的地へと着くからっ。」

「わかった。」

これでやっと本来の目的を進めることができる。

相変わらず、スピードスターは後ろをついて来ているみたいだった。

普通ならここら辺で諦めて帰ると思うが、奴が他の人間と違うところは自分の能力を慢心しているところだ。

力を持っていれば負けることはない。

おおよそそんなことを考えているのだろう。

だが俺達の前ではそんなことはない。

そろそろ目的地へと着く。

後は静かに話を済ませることにしよう。

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