第15話

 私と死神が車に乗り込んで三時間ほど経過した。時刻はちょうど12時。


「もう少しで到着しますんで準備をお願いします」


 秘書は私に声をかけた。

 私は準備なんて必要ないので、なんとなく死神へ視線を向ける。

 が、あんなにもUSNに行きたがっていた死神はわたしの隣で爆睡していた。


 すると不意に死神の二つの小さなまぶたが開き、視線がこちらを向く。


「おはよう」


 死神は私に言った。ちなみに、死神は秘書には視えていない。私にだけ見えるらしい。更に死神は声すらも秘書さんに聞こえていないらしい。私がここで返事を返してしまうと面倒なことになりそうなのでスルーしておく。


「秘書さん」


「なんですか?」


「秘書さんも来るんですか?」


 私は疑問に思っていたことを尋ねた。

 わたしの質問に秘書は、


「私が行かなければあなたは補導されてしまいますよ。今日は平日ですよ、しっかりしてください」


 とノータイムで返してくる。

 やっぱりくるんだね。まあいいや、秘書さんには何処かでゆっくりしていてもらおう。私もどうせアトラクションで楽しめるような元気は残っていないし、そんな気にもなれないから。


 そして車が駐車場へと到着した。

 私はシートベルトを外し、ポケットの財布とスマホをチェックする。よし、ちゃんとある。ちなみに本はスマホに電子書籍として入っている。

 私はドアをあけ、外に出る。死神はと思い、死神の方をみたが、死神はいつの間にか車を降りていた。


「では行きましょうか」


 秘書が私に声をかけスタスタと歩き始める。わたしも置いて行かれては困――らないけど、しっかりと秘書の背中を追いかける。







 受付を済ませた私と秘書はとりあえず地図を眺めてみた。ちなみに死神は私以外には視えていないのでお金を払っていない。大丈夫かな。まあ他の人にはみえてないし問題ないか。うん。


 ここUSNは東京ドーム二つ分の広さがあり(詳しい面積は知らない)、アトラクションもたくさんある。

 アトラクション、といってもほとんど遊園地と変わらないんだけどね。


 私は秘書と何処をどんな順番で回るかだいたいのことを話し合った。

 死神はと言うと、自分が行きたいと言っていたはずなのに、近くのベンチに座って何処から取り出したのか持ってきていたのかよくわからない大鎌の手入れをしている。その大鎌は死神の身長と同じくらいの大きさでいろは、死神と正反対の黒。大鎌だけ見るとまともな死神っぽいね。


 死神は顔を上げ、こちらを見る。そして私にこう言った。


「楽しんできてね、沙奈さん。私はここで鎌の手入れをしてるから困ったことがあったら呼んでね」


「えぇ……」


 なんて身勝手な。

 心の中で私は思った。もちろん声には出さない。




「じゃあこの順番で回りましょうか」


 三分ほど話し合うと、回る道順はすぐにきまった。この道順だと電子書籍なんて読めそうにないなぁ……


「いってらっしゃーい!」


 死神が私に手を降る。


 はぁ、まったく。














 結局、私はUSNを満喫でき、沈んでいた気持ちもいつの間にか少しだけ楽になった。それでもだ。


 それほどまでに私の心の傷は大きいのである。


 しかし私は両親以外の人への甘え方を知らない。もちろん相談なんて両親以外にしたことはない。


 だから私は、せっかく気を使ってくれた死神や秘書に笑顔で振る舞い続けた。


 作り笑顔は得意だった。

 この作り笑顔のおかげで私は周りの人間から『明るい子』と思われている。実際どうなのかと聞かれると答えづらいが、どちらも50パーセントずつぐらいだと思う。


 時刻は午後5時。あたりはすっかり暗くなっている。

 私達はUSNを出て車に乗り込んだ。

 それから着たときと同じぐらいの時間をかけて自宅まで戻ってきた。

 もちろんその時も笑顔は絶やさなかった。


「今日はありがとうございました。おかげで元気が出ました」


 そう言って私は頭を下げる


「それならよかった。私もここにきてよかったわ」


「さようなら」


「はいさようなら」


 秘書は車に乗り込んで、今朝やってきた方へと帰っていった。


「ふぅ……」


 なんだか今日一日ですごく疲れた気がした。

 そとに出たのも、人と話すのも、自分から何かをするのも、何もかも久しぶりだった。

 これから一週間、毎日こんな感じなのかな。だとしたらちょっとかんべんしてほしいかな。流石に辛い。



 そして、一週間のうちの一日目が終わった。

 随分と長く感じたけど気のせいだよね。


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人を殺さない死神 あいれ @wahhuru

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