第14話

 沙奈は荷物――と言ってもスマホと財布だけだが――をもち、無料通話アプリを使って両親の会社の秘書を呼び出した。

 数秒ほど待つと秘書は電話に出た。


「USNに連れて行って」


 沙奈はこれから行きたい場所――性格には死神のだが――を秘書に伝えた。

 秘書は一瞬考えてから、


「……わかりました」


 と沙奈に答えた。


「ありがとう」


「1時間ほどでそっちに行きますんで少し待っててくださいね」


 優しい口調で秘書は沙奈にそう言った。


「それでは失礼します」


 沙奈は隣で椅子に座って足をぶらぶらさせている死神に声をかけた。


「少ししたらここにくるって」


「ん。わかりました」


 死神は返事をして椅子から飛び降りると、今度はソファにダイブした。

 あんなことして何が楽しいんだろう、と沙奈は考えたが、死神の思考なんてわかるわけもないので聞いてみた。


「楽しい?」


「はい」


 死神は即答した。


「こういうの見るの初めてなんですよね」


 死神はそう言って笑った。


「ふぅん……」


 沙奈はソファにダイブしたり、家の中をうろうろ歩き回っている死神に興味をなくし、近くに置いていた本を手に取り読み始めた。



 そして時間が40分ほど流れた頃、インターホンがなった。秘書が沙奈の家に到着したようだ。


「いきましょうか」


「はい、お願いします」


 そう言って沙奈は車に乗り込む。


 正直に言うと興味なんて微塵もない。


 死神が行きたいから行く。ただそれだけ。


 沙奈は両親が居ないこの世界に価値を見出だせなくなっていた。


 

 秘書の運転する沙奈と死神の乗った車はゆっくりと動き出した。


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