1-5 乗り越えられないトラウマが

 後日。

 ジャンク屋TODOに珍しい人物が一人の少女とともに現れた。

 白衣の彼は一見平然としているように見えるが、その全身は震えていたし額には脂汗が浮いている。

 人間嫌いの彼は、再び町に下りてきた。

 藤堂修也はやってきた彼を見て素っ頓狂な声を上げた。

「リリヤさん!? そ、それにその子は誰ですかい?」

 ああ、とリリヤは頷いた。

「ツァーリが激しく壊れてしまってね、修理のための部品を買いに来たんだ。それに新しく改造もしてやらないとならないし……あれじゃあちょっとまずいなって思ったし」

「で、ティティはリリヤとツァーリの友達なんだよ。色々あって、今はリリヤのけんきゅーじょにお世話になっているんだよ」

「……驚いた」

 驚きの目で、修也はリリヤを見つめる。

「まさかあなたが、人間嫌いのあなたが、人間を匿ってやるなんて……」

「人間というのは変わるものさ。僕だって、少しは……」

 リリヤは言って、にやりと笑う。

 修也はまだ驚いたような顔をしていたが、やがて我に返ってリリヤに問うた。

「そうだ、修理と改造って言ってましたね! どんな部品がご入り用ですか?」

「それはね……ああ、ちょっと長いからメモ取ってくれるかい? 久々に大掛かりなことをするよ。そしてそのための部品を頼めるのはここしかないんだ」

 修也がメモの用意をしたのを見ると、リリヤはすらすらと部品の名前を口にした。


  ◇


「……ってものが欲しいんだけれど、在庫、あるかい?」

「ただ今見て参ります――って、親父ィ! そんなところでサボってないで手伝えよ! 珍しいお得意様からの注文だぞ先に引退しようとするんじゃねぇ親父もちっとは仕事しろォ!」

 店の奥に怒鳴り声を投げて、修也はリリヤに軽くお辞儀をすると、店の奥に消えていった。

 それを見届けると、リリヤは壁に背を預け、ずるずると座り込んだ。

「どうしたの? 大丈夫?」

 それを見、ティティが心配げにリリヤの顔を覗き込む。

 青い顔で、ああ、気にしないでとリリヤは手でティティを追い払い、自分に言い聞かせるように呟いた。

「ああ、僕も少しは慣れなくちゃなぁ。あっはっは、この周辺に人間が三人いるって考えるだけで気分悪くなるとかどうかしてるって……」

 しばらくして、修也が大きな箱を手に戻ってきた。

「全部ありました! ……って、リリヤさん!? 大丈夫スか!?」

「どうもね。ああ、気にしないで。すぐに治るから……」

 言って、リリヤはよろよろと立ち上がり、代金を白衣のポケットから取り出して修也に放り投げると、修也の手から箱を受け取り、数歩後ずさった。

 その顔に浮かんでいるのは、恐怖。

 リリヤにとって、人間というのはいまだ、克服できぬトラウマだ。

「どうも……ありがとう。あっはっは、町に下りるのはまだ慣れないねぇ。何とかしないとならないのはわかってるのに、身体が言うことをきかないんだよ……」

 じゃあ、さよなら。

 そう言って店を去ろうとするリリヤの背に、修也の言葉が投げかけられた。

「あなたの過去は知らないですけど、少なくとも俺らは味方ですからね。あまり無理をなさらずに……」

 その言葉は、孤独な天才技術者に届いたのだろうか。


  ◇

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