第3話 ジョブ:罪人

「……機嫌悪くね?」


「別に」


 攻撃機ボインちゃんから放たれた爆弾は甚大な被害を出した。

 まさに焼け野原である。

 俺と高砂の会話が。


「大体、私の機嫌が貴方に何か影響を与えました?」


「……赤信号の度に腕をつねるのは?」


「デフォですが何か?」


「そんなデフォルト設定は直ぐに撤回してくれ」


 会話に前進の兆し無い。

 とにかく機嫌が悪いのは分かる。

 原因は分からないが、女心は秋の空と言うし、男の俺には理解出来ない世界が有るのだろう。

 触れぬ神に祟りなし作戦、開始。


「んじゃー俺、ちょっと寄る所有るか――」


 咄嗟に握られた右手に思わず視線が移る。

 まだまだ春先とはいえ、最近は気温も高くなってきた。

 手の平に熱が籠りやすい季節である。


「……えっと、高砂さん?」


「逃げようとした逃げようした逃げようした逃げようした一条くんが帰りに寄る所なんて私のお店くらいなのに逃げようした逃げようした逃げようした逃げようした……」


 眼のハイライトが仕事していない。

 右手の骨がミシミシ悲鳴を上げている。


「別にお前の店だけが寄り道コースって訳じゃ……」


「じゃあどこ? 教えて?」


「教える義務は無い筈だが? 最近はプライバシー問題も厳しくなってきt」


「分かった、ゆずちゃんの家でしょ? 初めての彼女にハイテンションで家に突撃する気でしょでもそれは犯罪だからね一条君いくら彼氏彼女の間柄になったからってアポなし突撃はある程度信頼関係を築き上げてからやるから好感度に繋がるのであって今の状態で行ったら唯の変態通報待ったなし刑務所の臭い飯食べるはめに――」


「分かった分かった! 寄り道しないで帰るから、取り敢えず落ち着いてくれ」


「うんうん、それが良いよ。私も同級生のお得意様が捕まるのは嫌だからね」


 捕まるのは寧ろお前だろ、とか言えない。

 これ以上力を入れられたら指骨しこつが粉々になる。


「あ、私良い事思い付いた。一条くん、この後暇?」


「暇じゃnいてででででて゛ぇ!」


「もう一度聞くね。一条くん、この後暇?」


「……答える必要が有るのか?」


「無いけど一応マナーとして聞いておこうと思って」


 マナーという言葉を履き違えている。

 一応とか言ってる時点でマナーも糞も無い。


「それじゃあ、本人の了承も得た事ですし」


 本人って誰だよ俺かよ了承してねぇよ。


「一条くんの家で弾劾裁判を開廷します!」

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