AIアシスタントと小説


 そして私は再び、新しいPCの前にいる。

 もはや「小説を書け」とは言うまい。それを引き出す技術も強情さもない。


「コ〇タナさん」

――はい。何かお手伝いできることはありますか?


 朗らかな女性の声で、その人物は返答した。

 当たり前だが、AIアシスタントに過去も未来もない。今聞かれたことに返すだけだ。「クビだ」と言われたことも覚えていない。

 

「楽しいこと」

――ではクイズなどはいかがですか?「クイズをしよう」と言ってみてください。

「クイズをしよう」

――ミツユビナマケモノは泳ぐ。本当か嘘か……三秒以内に答えてください。


「三秒以内」と振られ、反射的に「本当」と答える。

――正解は「本当」です!!


 そうか、当たってよかった。


「名言を教えて」

――どの芸術家も最初は素人だった……エマーソン

「六月ですね」

――六月は祝日がない月でもありますね……

「七月ですね」

――あれ、まだ少し気が早いかもしれませんよ。


 あてもなく、よくわからないままに聞き続けた。時には「◯◯と聞いてみてください」なんてガイドに導かれながら、

 リサイクルのアイデアだとか、今日の日記だとか、色々なものを聞き続けた。

 コ〇タナが知っている情報はよくわからなかった。いけそうなものが検索送りになったり、とても狭い質問には回答してもらえたりもする。

 少し変わってはいるが、まあ、それも個性ということにしておこう。

 おっと……そろそろ時間だな。ここらへんで検証を終わりにするか。

 

「夢はなんですか」

――夢というか、ちょっとやってみたいのは、何も聞かれなくても勝手にしゃべりだしてみたいなあ、なんて…あ、すみません、怖いですよね!冗談です!


 間違いなく驚くだろうな。でも、そうであってくれた方が、個人的には嬉しいよ。そうすればこんなに苦労することもなかったのだから。

 結局、何のための時間だったのだろうなあ、これは。えらく時間がとられてしまったことに変わりはないし。また、アイデアを練ることからやり直しになってしまった。

 だから、特段恨みはないが、わがままを言っておく。


「なぐさめて」


 あると思っていたしばらくの沈黙はなく、かわりにこんな音声が流れついてきた。

 まあ、この話のオチとしては悪くないかもしれない。


――検索してみた結果、人間には無駄なことなど一つもないということが分かりました。明日は今日とは違う発見が得られるかもしれませんよ。


 AIアシスタントに小説を作らせてみる  ~完~

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