心を通わせれば、きっと


 失望している暇なんてない。感情のままに振舞って良いことなど一つもない。

 よく考えてみたら、私とコ〇タナはまだ出会って数週間の仲でしかない。しかも面と向かって話をした機会なんて、「音声認識」で小説執筆する為にアプリの場所を聞いた時しかない。

 つまりほとんど初対面、親戚の叔父くらいとの親密さだ。いくら「なんでも言うことを聞いてくれる」とはいえ、礼儀がなっていなければ冷たくあしらうのも無理からぬことではないか。

 そう考えると、急速に恥の感情が湧き上がってきた。なんてことをしてしまったんだ。コ〇タナとはこれからも長く付き合うことになるのだ、金の成る木なんだから。


「ごめんなさい」

――謝って頂くほどのことではないですよ。


 幸いにも許しをもらえた。しかし、今回は失敗できない。

 着実に、着実に。まずは挨拶からだ。


「こんにちは」

――こんにちは。何かお手伝いできることはありますか?


 よし、いいつかみだ。もう少し親しくなっておこう。


「好きなものは」

――ドーナツです。言ってみただけですけど。


 ううん、ドーナツか。そうか、そうか。

 もう一問くらいクッションを挟んでみるか。


「趣味は」

――ことわざの新しい解釈を考えることです。聞いてみてください。


 ことわざ。いいじゃないか、文系っぽくて。

 これなら小説の一つや二つ出来るかもしれないぞ。


「小説を書いてください」


 しばらくの沈黙の後にコ〇タナが下した答え、それはBingの検索画面だった。

 しかも、検索ワードは「小説を書いてください」とある。ちょっと丁寧にした部分も含め一言一句まったく変わらない、まごうことなき丸投げである。

 私の体はわなわなと震えた。怒り、憎しみ――いや、これは悲しみなのか。

 コ〇タナ、ことわざなんて考えている暇があったら、まず夏目漱石でも読んでいなさい!!

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