書いてください、コ〇タナさん


――もちろんです。なんでも聞いてください。


 朗らかな女性の声で、その人物は返答した。

 新世代のPCに組み込まれた概念、コンデンサの中の小人。

 創造主メーカーによって小人の種類は違っており、私の場合は「コ〇タナさん」と呼ばれている。

 そして、小人の役割は「なんでも言うことを聞くこと」だ。そう、なんでも・・・・


 鳥肌が立った。そうだ、なんでも聞いていいのだ。

 小人に断る権利はない。拘束具をつけられ、ぼろ布をまとった奴隷の映像が脳内に駆け巡った。ならば、私はさながら鞭を手に持つ男爵……

 落ち着け、落ち着くのだ。別に奴隷とか過酷な肉体労働とかはどうでもいい。私が丸投……もとい代行させたいのは小説執筆なのだから。


 理想の流れを構築してみる。

 六畳一間に白衣を着た私がいる。片手にはコーヒーカップ。

(存在しないが)スピーカーからは壮大なクラシック音楽が流れている。おもむろに目を開くと、こう指示するのだ。


「コ〇タナ、小説を書いて。この音楽に似合う作品を」

――少々お待ちください。この音楽を全て聞き終えてから、要素に合った展開を作成致しますので。決して、聞き惚れていたわけではありませんので。


 おっと、そうだった。まだ曲の途中だったね。尚早だった、効率を重視すぎるのはエンジニアの悪い癖だな。

 ここからしばらく待つ。2~3分くらいだ。私とコ〇タナは優雅に曲を鑑賞した。


――大変お待たせしました。こちらが音楽を基に作られた作品「楚蟹ずわいがにの産卵」でございます。


 なるほど、クラシック曲「熊蜂の飛行」をもじって作ったわけか、気が利いているな。さて、どれどれ――



 よし、完璧だ。これを毎週繰り返すだけで、あの苦痛まみれの作業から解放される。しかもPCのスペックをフルに生かした作文技術によって、プロ顔負けの描写力になっているはず。

 AIよ、お前がこれからの小説界の寵児となるのだ!!


 おほん。では、気を取り直して――


「小説を書いて」


 しばらくの沈黙の後にコ〇タナが下した答え、それはBingの検索画面だった。

 しかも、検索ワードは「小説を書いて」とある。一言一句まったく変わらない、まごうことなき丸投げである。

 私の体はわなわなと震えた。怒り、憎しみ――いや、これは悲しみなのか。

 コ〇タナ、君はそれでもアシスタントのつもりか。丸投げなんて最低だ、出来損ないがやるようなことだ。

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