第10話 拝啓、はい。決まってました。
拝啓、転職失敗人間様
私の名前は、山澤 久幸 43歳です。前職では、西日本営業本部長の職に就かせて頂き、順調にキャリアを重ねて来ました。しかし、社長の交代と共に方針が変わり、毎月の会議用資料作りの為に時間を割くようになりました。そんな働き方に疲弊し、上司ともうまくいかなくなり、転職を考える様になりました。
いささか疲れ切っていた私は、同業界で働くより、しがらみのない他業界での転職活動をしました。何とか4月からの勤務先を見ることが出来ました。給料も安く、自宅から勤務先まで1時間半かかり、通勤が辛いですが、ややこしいしがらみのない普通の営業として働けるので、この時は、この選択が私にとって最良だと思っていました。
翌年の4月からとのことで、4カ月ほど先での入社でお話頂きました。引き継ぎもありましたので、年末前に退職願を出しました。有休消化もさせて頂けるとの事で、出社は2月中頃までになりました。退社するまでは責任を持って仕事と引き継ぎとご挨拶をさせて頂こうと思い、気持ちを切らす事なく仕事をしていました。
そんなある日、本社のマーケティング部長の川田さんより、いいお話を頂きました。
「今度、小さい外資系企業の社長になることになった。是非一緒にやらないか?」
というものでした。川田さんとは、元々仲良くさせて頂いていた方でしたので、前のめりにお話を聞かせて頂き、好条件でのオファーを頂きました。
翌年の4月からとのことで、なんとダブルブッキングになってしまいました。もうすでに内定受諾の連絡もさせて頂いておりましたが、かなりの好条件の為、心が動いてしましました。ダブルブッキング状態のまま最終出社を迎えました。
いろいろありましたが、最終的には円満退職することが出来、そして有休消化期間に入りました。その直後、川田さんよりご連絡が・・・
「申し訳ないですが、7月からの入社にしてくれないか?」
とのこと。売り上げが目標金額に届かず、採用が3カ月先送りになるとの事でした。 とりあえず、決まった転職先に入社することにしました。ダブルブッキング状態でしたので、失礼ながら少しホッとしたところもありました。また、同時に7月の入社も大丈夫だろうかと言う心配も浮かんできました。入社すると、出勤はやや負担ですが、職場の雰囲気は良く私的にすごく水が合う職場でした。なんといっても、すごく歓迎され、話すことはウケるし、先輩社員もすぐに仲良くなり、仕事はとてもやりやすかったです。
7月の入社の現実味のない時期は、今後の不透明さもあり仕事に打ち込みました。 幸い結果も出すことが出来、このままここで・・という事を考えるときもありました。
しかし、分かっていたことですが、給料も安く、自宅から勤務先まで1時間半かかる事は、大きなデメリットでした。日に日にそれが重く重くなってきました。
そして、やはり川田さんの会社が気になり、5月末に川田さんより連絡を取りました。
「7月からで大丈夫だからよろしくね」
とのご返答でしたので、結局、退職願を出しました。正直言って、退職理由に困りました。給与、通勤に関して理由としてお伝えしづらく、職場の雰囲気はいいし、悩んだ挙句「思ってたのと違った」と言う以外にありませんでした。少し無理のある理由で退職願を出しました。
引き留めもありましたが、もう次も決まっていたので、退職の決意を伝えた直後、川田さんから電話が
「申し訳ない、7月から無理かも。1、2カ月待って欲しい。」
との事。大慌てで、先輩社員に相談しました。先輩社員は良い方で、全ての事情を分かった上で、
「私が山澤さんを引き留めた事にしておくから」
と言ってくれました。無事、退職願は取り下げることが出来ました。こんなに振り回され、最終的に9月入社で決まりました。
仲良くして頂いた先輩社員と同僚の皆様には本当に感謝しています。また、短期間で退職にさせて頂いた事に関しては誠に申し訳なく思っています。
最終出社日に支店長より
「山澤さん、もしかして初めから、その会社に行くこと決まってました?」
「ドキッ(笑)」
とごまかしましたが、鋭い突っ込みに膝が震えてしましました。
心の中では、
「はい。決まってました。」
と言いましたが、声には出せませんでしたが、鋭い眼差しは、私の心を読んでいる様でした。
もし、ダブルブッキング状態で4月を迎えたらどうなっていたんだろう?
そんなドタバタの転職活動で思った事は、「辞めたい」時は焦ってしまい、深く考えずに判断してしまいがちになる事です。
よく耳にするフレーズ
「転職は慎重に」
凄く身に染みる言葉です。
敬具
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