第11話 拝啓、ババ抜きのババの気持ち -その1-

拝啓、転職失敗人間様


 私の名前は、加山 悟 です。今年で40歳になります。

 この度、私の身に起きた壮絶な半年間に関して、どうしてもお伝えしたい事があり、この筆を取りました。

 前職は、大手の医療系機械のメンテナンスに従事しておりました。しかし、昨年、家庭の事情があり、九州地区に帰る為に、分野の違いますが、同じ医療系機械の会社に転職する事にしました。私はエンジニアとしてのキャリアは15年程あり、お客様対応といった面で評価される事が多く、そういった面では自信がありましたが、やはり分野が違うと覚える事も多く、今後は機械を覚えるといった点では苦労する事は覚悟しておりました。

 面接でご対応頂きました、人事ご担当の方や、九州地区サービスセンター長様はとても感じが良く、40歳の私を歓迎してくれました。

 その時は気にしていなかったのですが、面接時にサービスセンター長から

「君ならこのチームの溝をうまく埋めてくれる。」

とのお話がありました。この「溝」と言うワードにもう少し敏感に反応すべきだったと反省をしています。

 入社し、本社でオリエンテーションに参加しました。澤田さんという、同期入社の方がいらっしゃいました。他業界から来た方で、PCをあまり使ったことが無いようで少し不慣れな感じでしたが、お話してみるとすごくお話も上手で、私と同じようにお客様対応といった面を得意とされている感じがしました。

 オリエンテーション1日目には本社の部長の皆様が歓迎会を開催して頂き、「歓迎されている」と感じ、すごく幸せな気分で過ごしました。

 オリエンテーションも終わり、九州支店へ出社しました。前職では、身なりに関して厳しかったのもあり、ビシッとスーツを着て髪も整えて気合を入れて出社しました。9時出社の為、08:45頃には出社しました。支店には営業さんと事務の方しかおらず、しばらく待ちぼうけになりました。10時になりサービスセンター長が出社され、色々丁寧にご説明頂きました。丁寧なご対応に「歓迎されている」と、改めて感じました。

 11時ごろ作業着を着た面々が出社。私が支給された作業着ではない色の作業着であったり、明らかに作業着ではないズボンを履いたり、色とりどりでした。中には、無精ひげ全開の方が居たりと、驚き戸惑ってしまいました。

 今まで、比較的綺麗な格好で病院を訪問するのが常識と思っていたので、これは非常に衝撃でした。

 後日お話を聞くと、作業着は最近新しく変わったとの事。古い作業着も着用してもいいとのお話だそうです。私の常識の中では、基本的には会社のユニホームなので、全員揃えて新しい作業着を着用し、洗濯等によって新しい作業着が無い場合は古い作業着の着用が許可されているとの解釈でしたが、どうやら違うみたいです。

 古い作業着=昔から居る=偉い

このような、考え方をする方々もいらっしゃいました。

 メンバーは、1名のチームリーダーと私を含めた7名の社員と派遣社員2名でした。

 初日はPCのセットアップ等で過ごし、翌日には倉庫整理があったりと事務所内のお仕事で過ごした1週間。次の週から現場同行が始まりました。初回は、機械の点検作業に同行させて頂きました。社員の方1名と、派遣社員の方1名と私の3名で現場に入りました。新しい機械にワクワクしていましたが、初回はただ見ているだけでした。特に話しかけてもご指導して頂ける訳ではなく・・・たまに派遣社員の方が話しかけてくれる程度で、何とも不完全燃焼感が残る初日でした。

 基本的に一人一台の車で現場に行く方式でしたので、私にも車両が支給されました。その日から、現地集合になりました。

 2カ月目のある日、大きな病院の駐車場で駐車位置を探していると、同行させて頂く先輩社員の車両を発見しました。目が合いましたので互いに会釈し、近くに駐車スペースが開いてなかったので、少し離れたスペースに移動し駐車しました。その後、台車いっぱいの作業用の工具類を車から降ろし、先輩の車の近くに行くと、既に病院内に入ってしまっていました。待ち合わせの時間までにはまだ余裕があるのにも関わらず、置いてけぼりになってしましました。台車いっぱいの工具類を持って、後を追うように入ると、先輩は居ました。この時、今まで「歓迎されている」と思っていた私の感覚が、「歓迎されていない」に変わっていきました。


その2へ続く

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