*名のない少女*

静かな森を抜けて町が見えてきた

「~~っんん!二回目とはいえやっぱり二日間馬車はつらいなぁ...」

体が固まってきたため伸びをする

小鳥が二匹頭上を飛んで行った

近くで雛鳥たちが鳴いている

どうやらさっきの小鳥たちは親鳥のようだ

「ゼフィさん、私たちは違う道通るからそろそろ降りる準備してくれやぁ」

「わかりましたーありがとうございます」

どうやらかなり近くまで来てたようだ

「いえいえ、おかげでいろいろ助かりました、何より素っ気ない食べ物をおいしくしてくださったり、いろいろと話に乗ってくださったりしてくださったのでこっちの方が感謝しないとです」

三ヶ月に一回自分はコーヒー豆やその他もろもろを仕入れるために都市の市場に行かないといけないのだが少し問題が起きその先のさらに大きい都市に向かったのだ

「では、ありがとうございました。またご縁があったらよろしくお願いします」

「いえいえ、こちらこそありがとうございました。機会があればそちらの店にお伺いしますね」

別れを告げコーヒー豆を入れた袋を持って歩く

少々道のりはあるがこれくらいであれば特に問題はない

やはり大きい都市なだけあっていつもよりも質のいい豆が手に入った

この街に来た時に通ったこの道はとても気持ちがいい

「…?」

街が少し見えてきたころ草むらに少し違和感を感じた

どうも生き物ではあるが大きさが違う

この荷物だからスルーしてもいいがなにかひかれるようなものがありそっと覗いてみた

「!!」

ほとんど服を着ていない女の子が倒れていた

歳は10歳くらいだろうか、でも髪はボサボサになっていて体も汚れていてどうも普通じゃない

「大丈夫?」

ただ寝ていただけかもしれないので少し声をかけてみる

だが返事がない

少し首元を触って息がしているか確かめてみた

息はしているが浅い

体もやせ細っていて栄養が足りていないと考えられる

「…これはちょこっとまずいかも」

思わず声が出てしまった

それほどにも危ないと思った

このままだとこの子は死んでしまう

「もう少しだけ、頑張って」

そっと声をかけ急いで店に戻る

「あらゼフィ、長い買い出しお疲れ…ってそんなにどうしたの!?!?」

途中でミナさんにあった

ちょうどいいタイミング!

「ちょうど良かった!、これを店に持って行っておいて!これ鍵ね!どこに置いててもいいからお願い!あとできれば胃に優しい食べ物と暖かいもの用意できたらお願い!お金はあとで返すから!」

「え、ちょっと、急に言われても!わけくらい話してー!!」

声が聞こえるが戻らないといけないから急いで走る

1分1秒が危ない気がしてならない

さっき通った道を急いで戻る

自分がなぜこんな必死になってるのかは分からない

けどなぜかあの子は助けないといけないと思ったからだ

「!!」

ようやく戻ってきた

やはり意識は薄い、少し体温も下がってきたかもしれない

体に振動が伝わりにくいように持ち上げて走る

持ち上げると本当に軽い

「急げ急げ…!」

今までで一番早く走った自信があるくらい早く走った

店が見えてきた

扉もどうやら開けてくれているようだ

「もー!説明先に…ってその子どうしたの!?誘拐!?」

「説明は後!ベットに寝かすからごめん!」

ミナに言って急いで自分のベットに急ぐ

そっとベットに寝かしつけいつも朝起きたら飲む水を口の隙間から入れてあげる

「…っん、っん」

少しずつ入れてあげて水分不足はこれで解消できると思う

飲みきったら静かに寝息が聞こえてきた

体温も少し上がり脈も弱々しいがしっかりしている

とりあえず落ち着いたのでミナのいるところに戻る

「…で、訳を話してくれる?片付けながらでいいから」

「…わかった」

さっきまでのことを買ってきたコーヒー豆を片付けながら事情を説明していく

ついでに玄米を炊いておかゆの準備していく

「なるほどね…わかった、洋服とか確か昔着ていたやつがあったから見つけたら持ってくるね。ゼフィだけだと心配だから」

「助かる。自分じゃ女の子のことわからないからありがたい」

自慢じゃないが自分はあまり女の子と仲良くしていなかったためあまり理解していない

「それじゃ、取ってくるから一度戻るね、それ作り終わったらそばにいてあげなさい」

と言ってミナは出ていった

ちょうどいい感じにおかゆもできたので火を止めてある程度だけ持っていく

部屋を見ると女の子が起きていて外を眺めていた

「気分はどう?」

「…」

まだ現状を把握できていないのだろう

まぁ無理もないと思う

「お腹空いていたら…食べて?」

「…食べます」

そう言って両手を差し出す

持ってきたぶんをさらに少しに分けてあげる

少し匂いを嗅いで少しだけ口に含む

「…美味しい」

「それは良かった」

少しづつだが確実に食べていく

やっぱりかなり空いていたのだろう持ってきた分は全部食べ終わった

「…まだある?」

「あるよ、ちょっと待ってね」

スッカラカランになった皿をまだ残っているおかゆキッチンに持っていって再びそそぐ

「はい、ごめんだけどこれで最後ね」

「…わざわざありがとうございます」

「いいよいいよ、遠慮なく食べて」

と言ってちょうどいい感じの暖かさになったおかゆを渡す

味がお気に召したようで黙々と食べてくれている

「…ごちそうさまでした」

残りも綺麗に食べきった

かなりお腹が空いていたのは確かだったようで顔の色がとてもよくなった

「だいぶよくなったね、倒れてた時はとても心配したからよかったよ」

「ありがとうございます、おかげで助かりました」

「いえいえ、こういう時はお互い様だから、大丈夫だよ」

「…本当にありがとうございます」

とても礼儀正しくいい親に育てられたのだろうと思う

でもなぜあの場所で倒れていたのだろう

「倒れる前のこととか覚えてる?」

少し間を置いた後に首を横に振った

「じゃあ住んでる場所とか分かる?分かる場所だったら送るけど」

また少し考えている

「…何も思い出せない」

「何も?」

「…うん」

覚えていないのは何かあったのだろうか

「名前とかも?何か少しでも覚えていない?」

「何も思い出そうとしても何も思い出せない」

まさかとは思ったけど記憶喪失だったとは

うなずける訳ではないが辻褄が合う

何があったかはわからないがとても嫌なものにあっているのは分かる

「明日、一応医者に見てもらうから今日はゆっくり休んでて?」

「…うん、わかった」

少女は目を少しの間閉じたがすぐに目を開けた

「…手、握ってもらっても、いい?」

どうやら色々と不安があるようだ

確か小さい子供は人の肌とか心臓の音とか聞くと落ち着くとか話を聞いたことがある

どうやらすぐにぐっすり寝に入ったようだ

ある程度リズムを刻んで寝息を立てている

「…そこでこっそり立ってないで入ってきてよ」

「…わかってたならもっと早く行ってよもう、分かるものだけ直しておいたよ」

「助かる、一時の間動けそうになかったから」

階段を登る音がわずかにしていたのでわかった

「やっぱり…かなり大変な背景がある?」

「やっぱりなくても大変な事になっているのは確かだね」

このぐらいの歳で記憶がないというのは本当に何があったのか

「明日にでも体もなんか異常がないか医者に見せてくることにするよ」

この子の体調次第だが一番気になるのが体の異常である

悪いところがあればなるべく早く対処するに越したことはない

少し医者の人とも話をしたいこともある

でもとりあえず…

「この状況だと抜け出せそうにないから自分の分のご飯持ってきてくれませんか」

「はいはい、サンドイッチでいいよね」

今日はこの子が離れるまで寝れないようだ


朝になり朝日が部屋に差し込んできた

結局全く離れる様子がなくこのままご飯を食べて寝た

相当疲れていたりしていたのか揺らしても起きず、さらに抱きついてきた

「すぅ…すぅ…」

まだぐっすりしているがさすがに手からは離れてくれたようだ

静かに部屋を離れて固まった体を動かしてほぐす

「っよっし!」

片付けていなかった物を全部直して水をギリギリ沸騰する温度でゆっくり沸かす

その間にテーブル、イス、床など細かいところも無駄なく拭いていく

食器類もこまめに拭いているため汚れなども一つも無いようにしている

一通り終わったところでようやくお湯が沸く

あらかじめ引いておいたコーヒー豆に優しくお湯を入れていく

そうすることによってより美味しいコーヒーができる

…と思う

ただある程度出るまでに時間がかかるためこの間にも朝食のサンドウィッチを作る

わずかにあったチーズ、トマト、ハムを切っていく

そして少し黒胡椒をまく程度にかけてはさむ

それを二個作り二つとも半分に切る

この程度で朝は十分だろう

今日の予定を考えていると部屋から出てくる足音が聞こえてきた

「おはようございます…」

髪は長らく洗ってないだろうがやはりボサボサである上に長い

起きたばかりだからかすごく眠そうである

「おはよう、よく眠れた?」

「はい、おかげですごく眠れました。ありがとうございます」

ぺこりとお辞儀をする

小柄であるのと髪が長いのが相まって人形らしい

「お礼はいいよ、よく眠れたならよかった。朝ご飯できてるけど食べる?」

「食べます!」

目をキラキラさせて飛びついてきた

昨日の分だけでもなかなかだったのだが…食欲がすごい

「飲み物だけどコーヒーで大丈夫?飲めないのなら他のも用意できるけど」

「コーヒー…飲んでみたいです!」

昨日はもうちょっとおとなしいと思ったのだがかなり元気のいい子なのかもしれない

「試しにはい、苦かったらそこの砂糖かこのミルクを入れてね」

そしたらすぐに砂糖少し、ミルクも少し入れていた

「うん、ちょうどいい!」

この入れ方だと苦味はだいぶ抑えられるが子供にはやはり少し苦味があるようで少し入れるのが丁度いいようだ

サンドウィッチもしっかりと味わいながら食べている

さて自分も朝の記事を読みながらぱっぱと済まそう

我ながらとてもいい出来だと思う

朝食を済ましてミナさんが持ってきたと思われる洋服を見たところちょうどいいサイズである

それと同時にある程度の可愛さと着やすさがある

「ごちそうさまでしたー!」

ちょうど一通り服を確認して今日着せる服を決めていた時に食べ終わったようだ

「この服とこの服の組み合わせどっちがいい?」

明るめにコーディネートされた服と少し落ち着いているワンピース

まぁなんとなくだけどどっちをとるかは…

「こっち!」

わかってた

たぶんとは思ったけどワンピースを選んだ

「よいっしょ」

「着替えるのはこっちでこっちで」

ここで急に着替え始めたので背中を押して洗面所に連れて行く

「着替えた服はここに入れて置いてね、あとでちゃんと洗っておくからね」

色々と教える事が多いが静かな日常が賑やかになるからいいとしよう

準備を終え医者の元に向かうとしよう


「やっぱり記憶喪失だと思いますね」

やはり記憶喪失であった

「この子の場合自身を守るために脳が記憶を無くしたようなものです、ですがたまに全ての記憶を無くしていない時があるそうです、でもこの子は無くしてはいないがそもそもの外の世界をほとんど知らない可能性が高いかもしれないです」

最初に思った事が実際に指摘されると少し辛い

「やっぱり…ですか…」

「まぁ落ち込まないでください。それ以外は多少の栄養失調が見られていますがちゃんと食べさせていればすぐよくなります。体のあざも塗り薬を出しておきますので毎日消えるまで塗ってあげてください」

「ありがとうございます」

お礼を行って外にでる

「どうだったの?」

この子を連れて待っていたミナさんが聞いてきた

「大体は予想どうり、あざとかの薬ももらったし」

「それは良かったけど、この子のこと」

「とりあえず、自分で引き取ることにするよ。この子も懐いていることだし」

「…大丈夫なの?結構お金とかきつくなるんじゃないの?」

「なんとかするしかないよ、まずは役所にこの子の登録しないとね」

「だね、名前はどうするの」

自分にはネーミングセンスがないしどうしようかと考えているとふと思った

「シルフィア…かな、ほら自分の店にも使ってるし、これから暮らすわけだから店の名前の一部くらいなら与えてもいいと思うし」

「はぁ…まぁゼフィがそれでいいならそれでいいけど」

すこしあきれてるような感じだが顔はどこか安心しきったような感じだ

「ほら、はしゃぎすぎると水に落ちるよー」

近くにある噴水を見てはしゃいでるシルフィアとこれから呼ばれる少女の所へゆっくりと向かっていった

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ゼフィ・シルフィア 桜咲こゆり @sakurazakikoyuri

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