第41話「事件」


「厳密にいうなら事件はもう起きていたんだろう」


 女魔法使いが言うに、この時既に行方不明にあった子供が居たらしい。


「犯人は人間じゃなかった。そして犠牲者の声を真似られる能力を有してたんだ」

「……それって、まさか」


 そこまで話を聞いただけで、嫌な予感がした。


「親友の元に向かう途中で耳にしたのは、『聞いたことのある声』での悲鳴。ただし、親友のものじゃない。さっき話した縁を切った方の人物だ」

「あぁ」


 ここでそう繋がるのかと僕は納得するが、女魔法使いの話は終わらない。


「もう縁を切った相手だ。無視しても良かったんだろうけどね。切羽詰まったような、逼迫した悲鳴だったのと、護衛を伴っていたから――」


 つい、声の方に様子を見に行こうと言ってしまったそうで。


「『たす、けて』ととぎれとぎれの声の方に向かったけれど、ついた場所には誰も居ない。そう思ったところで、ソレが降ってきた」


 血まみれの化け物だったと女魔法使いは語る。


「魔物、の一種なのだろう。血はおそらく犠牲者のもので、すでに乾いていた」


 驚きと恐怖のあまり動けなかった自分と違い、付けられていた護衛は自分を庇うように立ってくれたと女魔法使いは語る。


「護衛と言っても誘拐を目論む犯罪者だとか人を想定しての護衛だ。魔物との戦闘なんて想定しての人選でもなかった。けれど彼は私を守ろうとしてくれた」


 だが、魔物の方は悲鳴を真似て人を呼び寄せた訳だ。助けに来た人間が腕に些少自信があろうともエサでしかないと見ていた訳で。


「私は助かった。現にこうして生きてるのだから言うまでもないだろうが。そして、護衛の彼も命を落とすことはなかったよ。魔物は他にもどこかで犠牲者を出していたのか、追いかけていた魔法使いが居てね。が、少し先走ったな」


 話を戻そうと女魔法使いは言い。


「現れた魔物は、鋭い爪の生えた大きな手を振るった。それだけで護衛の彼の構えが崩された。武器を持っていかれるところまでは行かなかったけれど、態勢は崩れた」


 そこで魔物はもう一方の手を振り下ろす。鋭い爪は無防備な護衛の身体を切りつけ。


「悪い夢だと思った。後悔もした、『あの時様子を見に行こうと言い出さなければ』と」


 その直後に魔物へどこからか飛んで来た火球が炸裂し、魔物は炎に包まれたそうだ。


「私は魔物に火球が炸裂した辺りで気絶してしまってね。目を覚ましたら、護衛の彼と並んで寝かせられていたよ。ちょうどここのような魔法使いの拠点に、ね」

「そうか、他の町にもありますよね……こういう施設」

「ああ。そして薬の方も置いてあったから護衛の彼は一命をとりとめたんだ」


 そして、目を覚ました自身の様子を見に来た人物と、自分を助けてくれた魔法使いとの対面を果たしたそうだ。









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