第40話「過去」


「自分でいいとアレだが私はそれなりに裕福な家の出身でね」


 女魔法使いは深窓の令嬢と行かないまでもいわゆるお嬢様であったらしい。


「それを言い訳にするつもりはないが、幼い頃の私は友人が出来なくてね」


 同じような出自の、いわゆるお金持ちの子供と顔を合わせる機会はあったものの、仲良くなることはできなかったと言う。


「最初に出来た友人は下町に住むごく普通の女の子だった。故郷の祭りの日に家の者とはぐれた時に出会ってね」

「大丈夫だったんですか……って聞くのは愚問ですね」


 前世で暮らして居た国と比べて治安の悪いこの国でお金持ちの子供が一人と言うのはかなり危険な気がしたのだが、何かあったならここに女魔法使いが存在するはずもない。


「ああ。その友人のおかげもあったのだけどね。帰ってからさんざんに叱られたよ。それはそれで仕方ないとして、最初の友人との出会いがそうさせたんだと思うが、私はそういう、言い方は悪いかもしれないが一般市民の子供ならいい友人になれるとそう考えたんだ。結果は失敗だったが」


 何でも友人になろうとした二人目がとんでもない人物だったらしい。


「私がいいところのお嬢さんだというのを利用した、と言えばいいのかな?」


 女魔法使い、いやこの場合お金持ちのお嬢さんとの信用と社会的地位を利用したというべきなんだろうか。


「この人物と一緒ならそう変な人物ではないだろう」


 と言う信用を得たのをいいことに、かつ女魔法使いを囮にろくでもない真似をしていたらしい。


「一緒に買い物に行って私が店員と話し目がそちらに向いている間に店の品を盗んだとか、私が目を離したすきに私物を盗んだとか、ね」

「うわぁ」

「時折私に食べ物やおもちゃをくれたこともあったんだが、おそらくは盗品の一部だったんだろう。後で気づいて返しに行くべきかとも思ったのだが、その頃にはその人物の素行に気づいて絶交した後でどこで盗んできたものなのかもさっぱりわからない有様だよ」


 こう、完全に見る目を誤ったということなのだろうか。


「以前、その人物と一緒に遊びに行こうと誘われて結局行かずじまいで終わったこともあったのだが、今になるとあれも良からぬ思惑があったのではと疑ってしまう。事実がどうかを確かめる術はもうないと言っていいわけだが」

「ええと、その」

「いや、すまない。感想に困るかとは思ったが、この話を挟まないと続きが不自然になってしまってね」


 女魔法使いはこの一件があってから友人作りへの熱意を失い、それどころか人間不信気味なってしまったらしい。


「家人や家族は大丈夫なんだ。ただ、初対面の相手となると……」


 そうして引きこもりとは言わないまでも他者と交流しない日々が続いたそうで。


「そんなある日、最初に出来た友人が別の町に引っ越すと知った」


 話を持ってきたのは祭りの日に女魔法使いの護衛件引率をしていた人物でその友人とも面識があったと女魔法使いは言う。


「私は彼女を親友だと思っていたからね。両親を説得してでも見送りに行こうとした。実際、説得して見送りに行ったんだ、ただ」


 事件はその日に起きたと女魔法使いは言った。


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