第42話「忠告」

「正直、対面して驚いた。こう、魔法使いと言うと、当時の私は『強い』『尊敬できる人物』『かっこいい』あるいは『きれいな人』というイメージを持ってたんだ」


 どことなく自嘲気味に女魔法使いが明かす。


「と、いうことは……」

「ああ。人々の為に危険に身を投じ、魔物をやっつけたりしてくれるということでそれこそ、勝手な英雄像を作り上げていた過去の私の前に現れたのは、どこにでもいそうなごく普通のおじさん、中年の男性だったんだ」


 無論、魔法使いの杖は持っていたし、実力の方は魔物を倒しただけあって確かだったらしいのだけどねとも女魔法使いは言って。


「恩人であるし、魔法使いは顔で戦う訳でもないのにな。当時の私は恩知らずにも後の師匠の容姿にがっかりしたものだ。もちろん後で白状して散々謝ったけれども」

「謝ったんですか?」

「助けてくれた恩人にして師匠だからね。不誠実なことはしたくなかったんだよ。師は笑って許してくれたが、あれはずいぶん前のことになる」


 驚く僕に苦笑して、女魔法使いは何処か遠くを見るような表情をしてから、急に真顔を作る。


「さて、私の恥の話はこれぐらいでいいかな。ともあれ、そういう経緯もあったから君を他人と思いきれないところがあってね」

「あー」


 女魔法使いが僕に過去の話をした理由の一つがそれだとするなら。


「だから、忠告しておく。これは助けられた後の私にも起こったことだが、暫くして私のもとに魔法使いがやって来た。恩人で未来の師匠とは別の魔法使いだ」

「別の?」

「そう。魔法使いというのは大きく分けて二つの立ち位置の者がいるんだよ。一つは師や私のように国中を回って普通の人の手には負えないような脅威から国民を守ったり、真相にたどり着けない難事件を解決する『外回り組』。もう一つは研究に取り組んだり国家の中核を担う人物に助言をしたりする『中央組』とも呼ぶべき魔法使いたちが」


 おうむ返しに問うた僕に捕捉をつけて色々説明したことを自分なりに解釈してみる。


「『魔法使いは国民の為に働いているし国は国民のことをちゃんと考えてます』という宣伝看板を兼ねた実務の魔法使いと研究者兼権力者の腰ぎんちゃくやってる魔法使いの二つのタイプが居る、と」


 なんて馬鹿正直に思ったことを言うのは憚られたが、たぶん間違ってはいないだろう。


「後日やって来たのは『中央組』の方で、目的は師の方が挙げた報告の確認と事件に関しての口止めを私たちにするためだったよ。口止めのやり口は殆ど脅迫だったけどね」

「うわぁ。つまり、僕のもとにも口止めにやってくると」

「おそらく」


 国にとって都合の悪いことをしゃべられたら困るということなのだろう。


「こういうのは失礼かもしれないが、君は裕福という訳でもないからないとは思うが……私の時は父が金銭をねだられた」

「それって……」

「まぁ、そういう奴らという訳だ。下手なことをして目をつけられると面倒なことになる。こう、犯罪組織とつながりのある者も居るなんて未確認の噂まであるくらいだ」


 どう考えても外部に漏らしては拙い内容のような気がするが、それだけ僕のことを気にかけてくれたのだろう。


「すみません」


 ここまでされると、正体を決して悟られてはいけない相手とは言え欺いてることに罪悪感を覚えて、つい謝罪の言葉が口を突いて出たのだった。

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