第35話「待機」

「よろしくお願いします」


 案らしきものを出してしまえば、僕にやれることは引き続き考えることくらいしかない。もっとも、情報が足りない今、下手な考え休むに似たりかもしれないが。ショージィを見送って僕の護衛に残った女魔法使いとただショージィが何らかの情報を持ってくるのを待つだけの時間が続く。


「うーん」


 もしこれで女魔法使いも側にいなければコアに接触して相談することも出来ただろうか。犯人が迷宮から出てきた魔物なら、犠牲者の殺害手段だとか犯人の目的についてダンジョンのコアであるあの石が知っていても驚きはしない。


「不安かい?」

「いえ、他にも何かできないかと考え……確かに不安かもしれませんね。こう、何か貢献できないとここで安穏としていていいのかっていう意味合いのなら」


 保護のためとはいえ、魔法使いの拠点を使わせてもらっている身だ。ダンジョンマスターであることが発覚しないかという不安だけではなく、慣れない場所に居るという状況で自宅の様にくつろげる神経を僕は持ち合わせていない。


「生真面目だね」

「あー、そっか。そういう見方も出来ますよね」

「違うと?」

「いえ、こう自分を客観的に見る余裕もないというか……」


 正直、そんなことに意識を割くなら問題解決に繋がりそうな何かを思いつきたいとも思う。


「もどかしかったり焦るのもわかる。だけ」


 そんな僕の表情を見て女魔法使いが言葉を紡いでいたところだった。


「おい、メアリー!」


 大音声が僕たちのところまで届いたのは。来訪者を知らせる仕掛けが動いたのとほぼ同時だ。


「あの声は――」


 まぎれもなく出かけて行ったもう一人の魔法使いことショージィのもの。


「あんな迂闊なことをするとは……罠か、それとも余程とんでもないことが起きたか……君はここにいてくれ」

「あ、はい」


 罠だった場合のことを、今の声の主が当人ではないだとか、脅されたとか操られてのものだとかならホイホイ出て行けば危うい。僕は素直にうなずいて、椅子に腰を下ろす。先ほどの声を聞いて気づかぬ間に立ち上がっていたのだ。


「けど、一体何が……」


 ショージィは先ほど出発したばかりだった筈、何かあって戻ってきたとしたなら、ここからそう離れていない場所でその何かがあったということになる。例えば、一連の事件の犯人が僕らの潜伏先を突き止めたか、潜伏先におおよその見当をつけ近くに来ていたところでショージィと出くわしたとか。


「いや」


 それはないだろう。近くに犯人が居るというなら、女魔法使いを呼んで僕を一人にしてしまうのはリスクが大きいと思う。となると、慎重さをかなぐり捨ててしまう程に大きく事態が動いたとかか。


「何にしても、今は待つしかないか」


 大きな情報を得て戻って来ただけならすぐに二人もここに戻ってくるはずで、ここにいてくれと言われた手前もある。出来ることがあるとすれば、いい知らせを持ってきてくれますようにと祈ることぐらいだった。

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