第34話「暗中」

「何も……と言うのは流石に酷だろう」


 だが、君を危険な目に遭わせるわけにもいかないと女魔法使いは言う、もっともだ。僕がわが身可愛さに肯定したわけではなく、ここで敢えて僕が身を危険にさらし囮なりなんなりをしたところで成果があるかと聞かれれば、僕自身首を傾げざるを得ないからだ。


「犯人のことがほとんどわかっていませんからね」


 とりあえず姿を見せずに犠牲者を切り裂くような手段を持っていることと僕に濡れ衣を着せようとしたと思われるような犠牲者の狙い方をしたということだけが僕の知りうる情報だ。姿を見せず犯行を行ったというのも遠方から何らかの手段で被害者を斬ったのか、透明になるとか他者から認識されなくなるような能力を用いて他者に姿を見られず近寄って直接斬ったのかも僕は知らない。


「犯行の時姿を見られなかったのが透明になる能力とかだったら、ノコノコ囮に出て言った僕が姿を消してる犯人に襲われるとか攫われることも充分考えられますし」


 危険に身を晒して得るものは何もなく、僕の方が攫われたり襲われて死傷するなんてことも充分考えられる。


「切り裂かれたってことは被害者は血を流したりしてますよね? 返り血を浴びて犯人が痕跡を残したなんてことは?」

「……あれば君に話しているよ」

「そうですか」


 だからこその現状でもあるのだろう。


「何か手掛かりがあればとは私達も思ってはいるんだがな」


 結局のところ有力な情報は何もなく、僕の視界内にあるのは渋い顔をした魔法使いが二人。


「かと言って犯人が次の事件を起こすのを待つわけにはいきませんし、そうなってくると……僕に思いつくのは聞き込みくらいですけど」


 魔法使いの言が正しく、犯人は他所で事件を起こした者と同一人物だというならば、他所からやって来たということなのだ。人かどうかはわからないが犯人としているのだから、とりあえず人だとして。


「人だったとしたなら、よそ者……外部の人間ってことになると思うんです。遠隔で隣の街とか遠くから犯行に及べるとか長期間透明になれるとかでもない限り、最近この街にやって来た人物の中に犯人は居ると思うので」

「なるほど、最近この街を訪れた人間を調べて前の事件のあった街からやって来た人物に絞ることで犯人の目星を付ける、と」

「はい。もう調べられているかもしれないかなとも思ったのですが」


 僕で思いつくぐらいなのだ。専門家の二人なら取り掛かっていても不思議はなく。


「いや、まだ犯行に及んだのが人間かどうかも断定していなかったからな。今は手掛かりの一つでも欲しい時だ」


 ひとまず街中の宿を当たってみるとショージィは外に出る準備をし始めた。




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