第33話「空振り」

「悪かった」


 玄関の方でそんな声が聞こえたことで僕は訪問者が誰であるかを察した。あの女魔法使いの方がやって来たのだろう。


「……考えすぎだったか」


 同時に犯人も透明になって後をつけてきているというケースも絶対にないとは言い切れないが、正直に言うなら魔法使い二人を相手に知覚させず近くに潜んでいられるようなヤツが相手だとは思いたくない。


「それはそれとして――」


 何かあったのだろうか、とも思う。不安が思考の一部をついつい独り言の形で言葉にしてしまうが、今の僕にはどうしようもない。


「可能性としてはあった、だが」


 魔法使い二人を待ったのはおおよそ数分ぐらいだと思う。そうして僕の前に姿を現した女魔法使いは、前置きしたうえで明かす。


「そうですか、あいつが殺されたんですか……」

「あぁ。事情を話す前に拘束しておくべきだった。君の元上司の方も取り乱して、そちらに気を取られた隙に外に飛び出して行ってしまってな」


 あとを追いかけて見つけたのは元同僚の死体だったということらしい。僕の方も魔法使いに目を付けられる危険性を鑑みて張り巡らせていたダンジョン網を秘かに撤去した部分があったからか、これには気づかず、当然ながらこの街で人が死んだにもかかわらずダンジョンの力が増すこともなかった。力が無駄になったと考えるならもったいないという思いもあるにはあるが、リスクを鑑みると力を確保するのが正解とも言い難い。


「しかし、これで君の疑いは晴れたという訳だ。もっとも現時点での証人はショージィ一人だが、魔法使いが証人として大々的に告知すれば疑うものはほぼ居なくなると思う」

「もっともだからと言って君を解放という訳にはいかんが」

「……ですよね」


 わかってはいる。


「罪を擦り付けられなかった腹いせに僕を襲う可能性があるとか、僕が捕まった場合僕の家を隠れ家にしようとしていて、犯人が今も潜んでる可能性とか……」


 自由にできない理由なら僕でもいくつかは思いつく。


「まぁ、手伝わせてくださいって言った言葉に嘘はありませんし、流石に得体のしれない殺人鬼か何かがまだこの街にいるって言うのもぞっとしませんし」


 ここで降りることはしないと僕は二人に告げ。


「それで、僕は何をすればいいですか?」


 ただ、僕が自分を何の力もない一般市民だとすると、やれることと言うのも少ないように思えるのだ。知恵を借りたいとか言われれば協力するつもりはあるが、魔法使いはこういう事件の解決のエキスパートでもある。正直、助言になりそうなことを言える自信はなかった。

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