第32話「反応」
「正直に言おう、わからん」
嘘をつかないと言う意味では誠意があるとも言えるのかもしれない、だが男魔法使いことショージィの口からもたらされたのは、今の僕には何の助けにもならない答えだった。
「犯人の足取りを追えているわけでもなく、こちらが把握しているのは普通の人間には不可能な方法で人を殺したヤツが居るということだけだ。そして犯行の手口が他所の街で起こったモノと一致していることぐらい」
手口からしてあいつの予想が当たっていたようだと口にするとショージィは顔を歪めて嘆息する。
「あいつには後で詫びねばならんな」
おそらく、今回の犯人が他所でやらかした余罪を既に退治した魔物の仕業と相棒とは別の結論を出していた件だろう。相棒である女魔法使いの方から経緯を聞かされているが故に僕には何に言及しているかが解かり。
「ともあれ、現状では犯人の外見すらわかっていない。そいつがこの街を後にしたとしても他所で事件を起こしでもしなければまだ潜伏してるかどうかもわからん状況だ」
「確かに……」
街にダンジョンを張り巡らして街中で何が起きたかを把握できるようにした僕ならば潜伏していても見つけられる可能性はあるが、魔法使いが滞在中の街でそんなことをやろうものなら、バレた上でやっぱりお前が犯人だという流れになりかねない。
「犯人に動きが無いとどうしようもないというのは……」
犠牲者が出ることを期待するようで何とも言えない気持ちになるが、現状では手の打ちようがないのだ。魔法使いたちにどういう方法で調査してゆくのかと聞くこともできない。聞いたところで機密情報であろうから話してはくれないだろうが。
「すまん。いずれにせよ今はあいつを待つしか――」
ショージィは僕に頭を下げると玄関の方を振り返り、まるでタイミングを見計らったかのように来訪者を知らせる仕組みが反応する。
「っ」
「君はここで待て」
思わず腰を浮かしかけた僕を制すようにショージィが掌を向け。
「……わかりました」
何故と言う言葉もついていっては駄目ですかと言う言葉も呑み込んで、僕は頷く。魔法使いが無意味に止めるはずもない。一息分の間を置けば僕にだってそれぐらいのことは理解できた。
「それよりも」
事件の犯人は犯行の目撃者に姿を見られることなく人を斬り殺している。透明になれるような能力の持ち主であった場合、ショージィの目を誤魔化してここに侵入してくるケースも考えておくべきではないだろうか。
「どこか隠れる場所は……」
ダンジョンマスターとしての力を使ってと言う訳にはいかない。おそらく子供のする隠れんぼの延長線上にあるようなお粗末な隠れ方しかできないであろうが、相手は殺人者だ。臆病過ぎるくらいでちょうどいい。そう思いながら僕は隠れ場所を物色し始めた。
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