番外2「2と4」


「下手をうちやがって!」


 男はそう罵りたい気分でいっぱいだった。だが、その下手をうった者は血溜まりの中に倒れ伏しピクリとも動かない。風が血の臭いを孕んで人気のない裏通りを抜けてゆく。


「街中で尋常ではない方法で人が殺された」


 そんな情報を得た男は主の命で今はもう動かぬソレを含む数名で事件について調べていたのだ。持ち主に力を与え迷宮の主とする石、新たに石の主となった者が力を得るために街の人間を手にかけた可能性を鑑みれば、調査を命じられたこと自体には男も異論はない。

 だが、殺人の犯人と思しき相手を見て何も考えず短絡的に仕掛ける阿呆が味方に居たのはいただけなかった。しばらく様子を観察して情報を得るつもりだった男の目論見はご破算、それどころか戦力の一人が死体となったことで旗色も悪くなっている。


「前任者が単独でしくじったから人数を増やす、そこまではいい」


 その増えた人員がロクにものを考えず怪しい相手に襲い掛かって勝手に戦端を開いた挙句襲い掛かった相手に手傷らしい手傷も与えられずただ死んだとなっては、居ない方がマシだったと思う男を誰が責められようか。


「くそっ」


 独言は役立たずとは言え一人をあっさり死体に変えたモノを前に不安を誤魔化すすための意味合いもあったが、ソレは男の独言には無反応で、それでいてじっとこちらに意識を傾けていることは男の身じろぎには反応することで明らかだった。


「襤褸を巻き付けた人型」


 ソレの容姿を言葉で表すなら、そんなところだろう。襤褸に隠されて顔どころか素肌を一切露出しない出で立ちは、人間かどうかも定かではない。


「ふざけるな……こんなとこで終わってたまるかよ」


 吐き捨てた言葉とは裏腹に、男の視線は揺れた。間合いの読めないくせに有効射程は長いという不可視の斬撃というフザケタしろものをどうにかせねば地面に転がる役立たずと大差ない運命が待っていることを知ったからだ。

 わざわざ相手に気取られるような声をあげることはせず、手の感触だけで服の内より取り出したナイフを男は投じた。


「ちぃっ」


 直後に舌打ちすると、舗装されぬ地面に身を投げ出す。ナイフが金属特有の悲鳴を残して弾き散らされたのを長々確認しているような余裕は男にない。


「らァっ!」


 転がった勢いのまま地面をたたいて反動で身を起こすと腕を振り。


「かかった、なッ」


 ただの腕振りにソレと自身の間の砂がぢりりと鳴ったのを知覚して、また地面を転がりながら男は再びナイフを投じた。


「はぁ、はぁ、はぁ……ようやく、当たりかよ……そっちのやつにも毒を塗っとくべきだったぜ」


 手傷を負わせたことで余裕が出来たのだろう。微かに口を綻ばせた男は気づかない。この様子を目撃していた一人の男魔法使いが秘かに踵を返したことなど。

 

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