第20話「就寝」

「やるなら数日から数週間かけてゆっくりと、だな」


 今後のことを鑑みれば屠殺場のダンジョン化は必須。自宅の地下から一直線に通路を伸ばしてゆく方法では自信がない、だったら気取られずそれでいてもっと確実な方法を採ればいいだけの話だ。例えば、自宅の周辺で自宅と屠殺場の中間にある場所をマーキングし、それを目印に通路を伸ばしてゆく、だとか。


「直接近くに寄らなければいい。同じ方向のいくらか離れた場所まで行ってマーキングし、マーク自体を繋げてその延長線上にある屠殺場へたどり着く。これなら可能だと思うんだが」


 どうだコアと僕はダンジョンコアに尋ねる。ダンジョンについてなら一番詳しいのは核であるあいつのはずで、もっとも現状では相談できる相手がコアしかいないというのもある訳だが。薄暗い、ただ蝋燭の明かりで照らされたキッチンの壁を見つつ僕は答えを待ち。


「はたから見ると危ない人、だな」


 そんなくだらないことをふと思う。会話相手が視認できないのだから、第三者から見れば壁と話す人だ。そう見えても仕方なく。


「そうか」


 コアから可能と言う答えが返って来て僕は満足し頷く。これで屠殺場のダンジョン化については想定していた通りの方法で進めていけそうだ。魔法使いも滞在している今、こちらは出来るだけ怪しまれないように動かなくてはならない。後々のことを考えるなら力は早くたくさん集めておきたいところだが、コアを狙う連中もそこは分かっているだろう。だから、積極的には動かず、できうる限りコアの所持者ではないかと言う疑いを抱かせないことを第一の方針とする。


「魔法使いが滞在してるってのはその連中にとっても枷になる」


 何か事を起こして魔法使いに目をつけられるということはコアを狙う連中も避けたいはずだ。ただ、魔法使いの滞在を連中が知らない可能性もあるが。


「……むしろ僕の方からあの魔法使いに接触してみるか」


 もし僕が見張られているなら、魔法使いに会いに行けばコアを狙う奴らも街に魔法使いが居ることに気づくだろう。会いに行く動機としては、先日の遅延証明をしてもらったお礼とでもしておけばいい。


「問題は、どこに行けば会えるかって問題だけど――」


 あの魔法使いは国が囲い込んでいる魔法使いで、国から派遣され事件などにあたっているだ。即ち、滞在先については国が面倒を見ていると思う。


「役人だったことがこんな時に役に立つとはなぁ」


 前職のおかげで滞在先に見当がつくというのは僕にとっては皮肉であり。


「一応『雪森の牡鹿亭』も当たっておこうか」


 あの時案内した店で何か食べて気に入っていたなら、また足を運ぶかもしれない。


「って、いけない、結構色々考えてしまったな」


 もう日が変わって遅刻したのは昨日だが、流石に今度は寝坊で遅刻するわけにもいかず、僕は服を脱いで寝巻に着替えるとベッドに潜り込んで目を閉じるのだった。

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