第19話 元引きこもりは砂漠で蚯蚓に……

 私、三雲茉莉みくもまつりと、機械人形ゴーレム雪姫ゆき胡桃くるみちゃん、そして中級精霊のモントは、新たな階層へ足を踏み入れた。

 この階層は暑く、地球の温泉のサウナなんか、比べ物にならない程だった。地面は砂で溢れ、砂漠のような風景だった。天井はあるんだけど。


「ここイヤ……雪姫、あれ、使って……」


 胡桃ちゃんもぐったりしている。機械人形でも、無理なものは無理なんだね……。


「おっけー胡桃ちゃん!!」

 

 そういって雪姫が『熱変動耐性付与』という固有スキルを発動した。


 これで周囲の温度は変わらなくなった。


「涼しー……雪姫、ありがとう……」


「どういたしましてっ!」


 さすが雪姫、かなり快適になった。

 熱変動耐性は、周囲の温度を適度に変え、変動しないようにすることができる固有スキルだ。このスキルのおかげで、うさぎの魔物のいた、ただ寒いだけの階層を突破できた。

 

 この階層もあの寒いだけの階層と似ていた。地面が雪か砂か、暑いか寒いか。ね? 似てるでしょう? 


 そんなことを考えながら歩いていると、いきなり地面が揺れ始めた。


「茉莉、魔力感知を使って地面を探ってください!!」


 モントが慌てたように叫ぶ。私は言われたとおりに魔力感知で地面を探る。

 私は驚いて腰を抜かしそうになった。コケてないからね!!


 なんと、地面には、大きな蚯蚓ミミズのような魔物が這い回っていた。しかも、私達の方へ向かってきている。気持ち悪いんですけどっ!!


「モント! 地面に蚯蚓が居る!!」


 モントは一人納得したように、「やっぱり……」と呟いた。


「茉莉、それは巨大蚯蚓ジャイアントワームです! そいつは縄張りの上を通った者を、見境なく食べてしまう雑食の蚯蚓です! その巨体を貫くことは、わたしにも無理かもしれません。逃げますよ!」


 モントが焦りながら私に言った。モントが焦ってるのって初めて見るなぁ……。

 ――って! そんなこと考えていないで逃げなきゃ!! 


 私達は一斉に走り出した。なるべく砂のないところを目指して。

 蚯蚓も私達を追ってくる。蚯蚓は私達と進む速さは同じくらい。これではいたちごっこだ。使い方? あってるか走りません。――ってこんなこと考えてる場合じゃないんだって! 困ったときのモンえもん!


「モント、このままじゃらちがあかないよ! 一瞬でいいから足止めはできない?」


 何かいい案がありますように! 何かいい案がありますように!

 モントは走りながらも腕を組み、何かを考え始めた。

 あれ? モント、結構余裕あるでしょ? 

 そして約10秒後、モントが出した答えは――


「……無理、ですね」


 三雲茉莉みくもまつり終了のお知らせ。どうか読者の皆さん、三雲茉莉の来世にご期待下さい……。


「二つ、理由があります」


 モントは余裕はあれど、打開策はないようだった。


「一つ目、あの巨大蚯蚓ジャイアントワームは目がない代わりに、鼻、嗅覚が発達しているのです」


 鼻!? どこにあるんですかぁぁああ!! 

 雪姫たちも必死で走っている。


「無駄に嗅覚が発達しているせいで、恐らくわたし達の匂いは覚えられてしまっています。あの蚯蚓を倒すまで、この階層にいる限りはわたし達は何処に逃げても無駄なんです」


 詰みってやつですね。完全に詰んでるじゃん……。


「そして二つめ、あの蚯蚓は、あの巨体を持っているくせに、うろこを持っています。しかも、その鱗の魔力抵抗値が英雄レベルで高いのです。攻撃するには刃物などで直接攻撃するしかありませんが、魔道具だと攻撃が与えられないんです」


 なーるほど、ボスレベルの魔物ってことか……あの蚯蚓、なかなかの強者じゃん。紫陽花あじさいと夕焼け、智慧之杖ウィズダムが使えないって……ははは……。

 思わず乾いた笑いが出てしまう。


 私は色々試してみた。そして必死に逃げる方法を考えた。


 走るときに私は【危険予知】を使って、蚯蚓の縄張りの上を通らないように気をつけて走った。それで気づいたことだが、どうやら、今私達を追いかけている蚯蚓しか、この階層にはいないことがわかった。もし他にもいたら……。いや……。IFを考えても仕方がない。というか、考えたくない。想像すらしたくない。


 私は羽の魔人から奪った固有スキル【飛行】で空を飛んで逃げたのだが、このスキルも、普通に走るのと同じで体力を消費する上、走ったほうが早いことがわかったので、飛ぶことは諦めた。

 

 さらに、【炎熱操作】を使って、蚯蚓の周囲の温度を数千度まで上昇させてみた。しかし、この暑さには慣れているせいか、蚯蚓は何も感じていないようだった。


 雪姫とモント、そして胡桃ちゃんに、壁のように魔力結界を張ってもらったのだが、それでも意味をなさず、蚯蚓は躊躇うことなく、失速することなくそれを割って突破してきた。

 

「どーすればいいのこれぇ〜〜〜〜〜〜!!!」


 ちなみに私の叫び声である。まぁ私以外にいないしわかるよね。




 それから私達は大体二時間ほど逃げ続けたが、私の体力に限界が来た。全力で走ったからね。そうしないと追いつかれてたし……。それに、いくら【自己再生】でも、凄い勢いで消費されていく体力を回復することは無理だった。まぁ固有スキルだし……。

 そして私は立ち止まってしまった。もう走れない。

 モント達も遅れて立ち止まった。モントが私に言った。


「大丈夫ですよ、茉莉。この蚯蚓には歯がありませんから。胃液は流石にありますけど、わたしや胡桃の魔力結界でなんとか防ぐことができるはずですから」


 なるほど、それでモントは落ち着いていたんだね。歯がないなら別にちぎれちゃったりする心配はないだろうしね……食べられるのは嫌だけど。

 ――ていうか、モント、食べられること前提に逃げ回ってたの!?


 蚯蚓が私達に追いつき、顔を近づけてくる。


「――臭っ!!」


 雪姫が悲鳴を上げた。胡桃ちゃんは嫌そうな顔をしている。たしかに臭いよね……。何食べたらこんな匂いになるんだよ。

 やがて、蚯蚓が私達を飲み込んだ。それと同時にモントと胡桃ちゃんが魔力結界を張って、私達を包み込む。


 やがて私達は、一緒に流された砂とともに食道を通って、胃(これを胃と呼んでいいのかはわからないが)へと流された。


 魔力結界のおかげで、匂いは薄いが、これが無かったらと思うとゾッとする。失神しっしんしてもおかしくないレベルの悪臭がただよっている。


「茉莉、ここは胃ですね」


 あ、胃ってやっぱりあるんだ……。


「どうする、モント?」


 雪姫がモントに聞いた。雪姫も早くここから出たいのだろう。私も同じだよ。胡桃ちゃんも気になっているのか、モントに目を向けている。

 モントは少し考え、答えた。


「茉莉に、魔法を撃って貰いましょう。わたしたちの魔力結界もそう長くは持ちませんしね」


 でも、魔法攻撃って聞かないんじゃ――


「でもさーモント、魔法攻撃って通らないんじゃなかったっけ? 鱗が邪魔とかどうと――か!?」


 雪姫も同じことを考えたのか、モントに質問した。が、途中で何かに気づいたのか、私を見つめてくる。


「茉莉! 魔法だよ!! 魔法を撃つんだ!」


「……えぇーっとぉ……? どういうことでしょうかぁ?」


 私の頭の上でクエスチョンマークが踊っている。


「茉莉、この蚯蚓、どの部分が魔力抵抗値が高いんでしたっけ?」


 モントが私に聞いた。


 どこって……それは――


「鱗……だっけ? ――っ!?」


 なるほど、モントはあれをやってほしかったんだ。


「オッケー、モント。派手に行こうか」


 そう言って、私は夕焼けを構えた――!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る