第18話 元引きこもりは道徳心を何処かで落としていたらしい

 私、三雲茉莉みくもまつりと、モント、雪姫ゆき胡桃くるみちゃんの4人で新たな階層に足を踏み入れた。そう、モントが転移罠トラップで飛ばされた階層だ。この階層から私のために上に上がってきたと考えると、相当きつかっただろう。本人は、


「楽勝でしたよ? ヌルゲーってやつですね、茉莉」


 と言っているが、実際にそうだったのだろう。……それにしても私、ヌルゲーなんて言葉この世界では使ったこと無いんだけど、いつ使ったんだろうか……。まぁいいや。

 モントはスタスタと迷宮を進んでいく。どうやら、この階層のトラップは全て熟知しているらしい。なんて記憶力なんだろう……! 私も同じくらいの記憶力だと思うけど……どうなんだろ。迷宮から出られたら勝負してみるのもいいかもしれない。方法は……考えとく。うん。

 それにしてもさ、ここ、クラゲみたいな魔物多くない? 「ほんとうに何もしなければ襲ってこないですよ」ってモントが言ってたけど、本当に大丈夫かなぁ……。


 観察していてわかったんだけど、このクラゲの魔物は魔力に流されて漂っているようだ。日本にいたクラゲがどうやって生きていたのかは知らないけど、このクラゲの魔物は、襲ってきたヤツしか食べないらしい。狩りは集団で、周りの仲間をどんどん呼んで行っていた。仲間と協力して獲物を囲み、クラゲ特有の触手で、状態異常にさせ、弱らせてからいただくらしい。なんと恐ろしきクラゲの魔物……。


 何故観察するだけでわかったかって? 

 実際には観察の他に実験も行ったからね。実験台ひがいしゃは私達から少し離れたところで歩いていた魔人族の女の人。これは意図的に女の人で実験したわけじゃない、その魔人族の人しかいなかったのだ。


 私はその魔人族に魔力の波が集中するように、魔力を少しだけいじった。そうしたらクラゲの魔物は波に流されるようにその魔人族の人のところに、滑らかに滑っていった。

 当然、実験台ひがいしゃの魔人族の女の人は不思議に思ったようだった。でもそこまで。

 それ以上考えようとしないのが魔人族。

 鬱陶しいとおもったのか、その魔人族はクラゲに攻撃した。してしまった。そう、モントが「何もしなければ大丈夫」と言っていたクラゲの魔物に手を出してしまったのだ……。いやまぁ私がそうするように仕向けたんだけどね……。ごめん。加害者は私ですねはい。


 実験台ひがいしゃはクラゲの魔物を持っていた杖で殴った。すると、攻撃されたクラゲが、いきなり不気味な高音を響かせ、周囲のクラゲがそれを聴き、そのクラゲも高音で騒ぎ始めた。


「何と言う連鎖反応……!」


 しゅはんが思わず声を出す。しかし、今はクラゲの出す謎の音でクラゲには聞こえていないようだった。


 しばらくすると、謎の音は止み、クラゲが集まってくる。実験台ひがいしゃは耳を抑えてうずくまっている。当たり前だ。あんな至近距離で頭のおかしくなるような高い音を出されれば、鼓膜の一つも破れてもおかしくはない。

  

 そして、集まってきたクラゲが実験台ひがいしゃを取り囲み、徐々にその輪を縮めていっている。やがてクラゲはその魔人族に触手を絡ませ、包むように閉じ込めていく。中で何かをしているのは見えるが、何をしているのかまでは、クラゲの魔物が邪魔でよく確かめることはできなかった。

 しばらくするとクラゲの魔物は魔人族から離れ、何処かへ行ってしまった。

 私は、魔人族の女がどうなったかを確かめるために近づき、驚いた。


 干乾びているのだ。遠目からにでもわかった、あのすべすべでもちもちそうな肌は、今はしわくちゃに。その魔人族の女が来ていた服までもがカピカピになっていた。


「――ミイラじゃん」


 しゅはんは思わず声に出してつぶやいた。

 あとからやってきた雪姫とくるっみちゃんも驚いている。そりゃあそうだろう。普通こんなに鳴るまで水分が足りなくなったりしないだろうからね……。


 更にモントがやってきて、


「あぁ、これはクラゲにでもやられてしまったのでしょうか……? 耳障りな音がこちらまで聞こえていたもので……やはりなんど見ても恐ろしいですね。茉莉、クラゲの魔物にだけは手を出さないでください。あなたもこうなりたくはないでしょう? わたしもこんなふうにはなってほしくないので……」


 そりゃあね。この死に方はちょっと……。ごめんね、魔人族のお姉さん。


「……うぅ……夢に出そう……触手プレイの上位互換って感じだったと思う……こんなふうにはなりたくないし気をつけるよ」


 もちろん触手プレイなんて見たこと無いよ?

 ただ、イメージを遥かに超えて恐ろしかった。これからはあのクラゲを見つけても、絶対に手を出さないようにするよ。あぁ〜、耳が痛い。音うるさすぎだよほんとに。


 この階層をモントは抜けてきてたのかぁ……。モントは凄いなぁ……。


「モント、この階層はどうやって抜けてきたの? 大変だったでしょ?」


 私がそう聞くと、モントは微かに笑い、こう言った。


「低級精霊達にクラゲを誘導してもらって抜けてきました。低級精霊たちが頑張ってくれたおかげで、すぐにここを抜けられましたよ」


 モント、それ反則じゃないかな……?

 わたしの契約してる低級精霊たちは私が呼んでも答えてくれないのに……。なんだろうこの差は。やっぱりモントのほうが強いのかな。

 そんな私の思考を読んだのか、


「大丈夫ですよ、茉莉。低級精霊達は気まぐれなのです。わたしの運が良かっただけですから」


 いきなり思考を読むのは勘弁してほしい。別に聞かれちゃマズいこと考えてたわけじゃないけど。

 なるほど。ヌルゲーっていうのは文字通りの意味だったらしい。


「モントだったら、迷宮ダンジョンを崩さないように魔法で切り抜けられたんじゃないの?」


 モントは恐ろしいほど凄腕の魔法使いだ。本当に精霊なのか疑っちゃうくらいにね。そんな魔法使いのモントなら、私のように迷宮ダンジョンを崩さないだろうと思って聞いてみた。

 モントは少し考えて、


「わたしが魔法を使えば、初級魔法の『爆炎・一式』でも、中級魔法ほどの威力を出すことは可能です。更に、迷宮ダンジョンを崩さないように、魔法を発動させることもできます」


 できるんだ……。凄いよ、モント……。


「しかし、その高度な技術で魔法を打てば、わたしの魔力は一瞬で半分近く失われてしまうのです。つまり、魔力の枯渇を防ぐために、わたしは、魔法の使用を控えていたのです。こんな答えでいいですか?」


 高度な技術て……自分で言っちゃうか……。まぁ認めるけど。


「ありがとうモント。よくわかったよ」


 難しいのか……いつか私もできるようになるかな……?


 そんなことを話しながら、クラゲの魔物に気を付け迷宮を進んでいると、次の階層への階段が見えてきた。雪姫と胡桃ちゃん? 私とモントがおんぶしてる状態だよ。機械人形ゴーレムなのにこの子たち意外と軽いんだよね。


「あれですね、茉莉」


「うん。モント、先導ありがとう」


「どういたしまして、次もぱぱっと終わらせちゃいましょうか」


「うん。よし、それじゃ行こうか」


 私達は、クラゲだらけの階層を抜け、次の階層へと足を踏み出した――。


 

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