第20話 元引きこもりはやり返す

 私、三雲茉莉みくもまつりはモント、雪姫ゆき胡桃くるみちゃんの三人で、巨大蚯蚓ジャイアントワームっていう大きな蚯蚓ミミズに飲み込まれた。


 今、私が焦っているかと言うと全然そんなことはなく、むしろ、生き生きとしていると言えるだろう。

 私のことを散々追いかけ回してきていた巨大ミミズに反撃できることがわかったからだ。覚悟しろ化物。

 

巨大蚯蚓ジャイアントワーム! 覚悟はいい? 私を追いかけ回したこと! 食べたこと! 後悔しなさい!」


 ――キマった。


 聞こえてるかわからないけど、とりあえず宣言する。意味? 特に無いよ。

 

 私は『夕焼け』を構えた。


 そして私は巨大蚯蚓のお腹の中で、魔法の詠唱を開始する。

 

 ――喰らえ化物、消し炭とれ……!


「――炎の精霊、破壊の精霊よ、我が魔力を糧として、全てを焼き払い、全てを破壊へといざなう力をここにもたらし、聖なるほのおを以もって敵を殲滅せんめつし、全てを無にせよ――!!」


 詠唱によって魔力がどんどん集まってくる。何処から持ってくるんだってほどに集まっていく。


 中級魔法、『聖属性・爆炎・一式』の上位互換じょういごかん、『弐式にしき』。

 一式とは異なり、聖属性の強さを残しつつ、更に爆発の威力を上昇させ、破壊に特化した中級魔法。


 詠唱? モントがブツブツ言ってたのを真似ただけ。成功してよかったよ。あれだけの啖呵を切ったんだからね。成功してくれなきゃ黒歴史確定だったよ……。いやまぁ存在自体が黒歴史だっていうのは理解してるけども……。


 それにしても私、よくこんな長い詠唱覚えたよね。【智慧者ちえしゃ】のおかげかな? でもあれは思考加速だけだったはず……。まぁ気にしない気にしない。


 そして魔力が可視化できるほどに集まった。

 私は息を大きく吸い、魔法名を叫んだ。

 雪姫達が耳を抑えている。モントは驚いている。にししっ、驚いたか、モント。


「『聖属性・爆炎・弐式』ッッ!!!」


 私は叫ぶ。喉が千切れる? 知ったこっちゃない。私は生き残るんだ。絶対に生きて帰るんだッ! 


 あ、魔力がごっそり減った。まぁ大丈夫だよね。


 集めた魔力が一斉に散らばってゆく。色とりどりの光を撒き散らしながら……。


「綺麗だなぁ」


 そう声に出そうとしたが、声は出なかった。否、出せなかった。喉がやられたんだろう。


「綺麗……」


 雪姫が思わず、といったふうに声に出して言っている。


 散らばっていった魔力は、巨大蚯蚓の体の中のあちこちにぶつかっては爆発、ぶつかっては爆発……と繰り返されていく。


 ここは巨大蚯蚓のお腹の中。いくら化物とて、内部からの攻撃には対処できないだろう。


 ――グァァァァァアアアア!!!


 巨大蚯蚓が悲鳴のようなうるさい音を撒き散らし、のたうち回る。


 ――あ、穴が空いた。痛そうだなぁ。私、まだこっちに来て、怪我らしい怪我したこと無いんだよね……。


 他人事ひとごとのように私は考える。いや実際じっさい他人事なんだけど……。


 ――あ、今度は大きな爆発……? 


 地面が大きく揺れた。


 巨大蚯蚓は未だにのたうちまわっている。


 私は立っているのが辛くなり、そばにあった岩に腰を掛けた。


 10分ほどすると、巨大蚯蚓は、諦めたのか、事切れたのか、暴れなくなった。


 ……恐らく後者だろう。


 ――ざまあみろ、蚯蚓の皮かぶった化物。私を追いかけるのが悪い。歯ぁ磨いて出直してこい。


 私は心の中で勝利宣言をした。

 そして、私は魔力不足のためか、強い倦怠感に襲われ、意識を手放した。


「茉莉、あとはわたしたちに任せてください」


 意識を手放す寸前に、モントの声が聞こえた気がした。


【ユニークスキル、蚯蚓殲滅ワームキラー殲滅者せんめつしゃを獲得しました】


 ――タイミング……。


 そこで私の意識は完全に落ちた――。

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「茉莉、あとはわたしたちに任せてください」


 わたしが祭りに声をかけると、茉莉は安心したように眠った。

 恐らく、魔力の使用量がコントロールできずに、上級魔法並の魔力を消費してしまったんでしょう……。それにしても……茉莉、よくわたしの詠唱を聞いていましたね……。まだまだコントロールできていないとはいえ、使いこなせるように成れば、上級魔法よりも高い威力が出そうですね。やはりわたしの目は正しかったんですね。


 茉莉が意識を手放すと同時に、巨大蚯蚓ジャイアントワームの身体が崩れ落ちた。


「雪姫、胡桃、移動しますよ」


「あ、はっ、はーい」


 わたしは、茉莉の魔法に目を奪われていた二人に呼びかけ、蚯蚓の身体から出た。


 蚯蚓の口から出たわたしたちは、次の階層を目指して歩き出した。

 雪姫が茉莉の『紫陽花あじさい』を。胡桃が茉莉をおんぶしている状態だ。

 わたし? 二人が、「茉莉は雪姫達が運ぶの!」と言って聞かなかったので譲ってあげました。


「……これからの茉莉の成長が楽しみです」




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「……ここは?」


 私は目が覚めた。固有スキル【自己再生】のお陰、で少し回復が早くなったのだろう。


「ふわぁ〜〜〜〜……」


 まだちょっと眠いなぁ……。


 そういえばモント達は?

 そう思って私が右隣を見ると、モントは静かに寝息を立てて寝ていた。


「綺麗だなぁ……」


 美人系っていうのかな? 

 そして私は左に視線を向けた。視線を向けた先には、美少女が二人、肩を寄せ合うようにして眠っていた。美少女っていうのはもちろん雪姫と胡桃ちゃんだ。

 いやぁ〜〜、目が癒やされて、ついでに心まで潤ったよ〜。


 そして、視線を少し遠くに向けると、次の階層への階段を見つけた。モント達……頑張ってくれたんだなぁ……。


「モント、雪姫、胡桃ちゃん……ありがとう」


 私は三人にお礼を言った。眠っているから聞こえてないだろうけど、後でまた言えばいい。


 それと、意識を失う直前のことでうろ覚えなんだけど、私の記憶が正しければ、【蚯蚓殲滅ワームキラー】と【殲滅者せんめつしゃ】の二つのユニークスキルを獲得した。

 蚯蚓殲滅ワームキラー機械殲滅ゴーレムキラー魔人殲滅まじんキラーと同じ系統の能力だった。これは、紫陽花あじさい付与エンチャントする予定だ。

 でも蚯蚓ってあれだけ厄介だし、そんなに数が居るとは思えないんだよね……。


 次に殲滅者。英語で書くと『Exterminate(エクスターミネーター)』。うん、かっこいい。

 このユニークスキルは、文字通り、の意味で、どの相手にも、通常より多くのダメージを与えられるようになるスキルだ。

 これは【機械殲滅ゴーレムキラー】、【魔人殲滅まじんキラー】、【蚯蚓殲滅ワームキラー】に重ねて発動でき、通常の3.24倍のダメージを与えることができるようになる。計算としては、

【殲滅系統のスキル】(1.8)×【殲滅者】(1.8)=ダメージ(3.24)

 みたいな感じだと思う。


 いやぁ、それにしても、この階層の蚯蚓、強かったなぁ……。内側からも魔法が使えなかったらと思うとゾッとするよ……。

 とりあえず今のうちにしっかり身体を休めておこう。


 そう思って私は身体を横に倒した。


 そして、眠気に身を任せ、夢の中へと旅立っていった――。

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