#5 はじめてのひとりたび
一人旅が好き。誰かと旅行することももちろん好きだ。でも、一人旅には ほかにない自由さがあるような気がする。その自由さが不自由さになることもままあるけれど。
ところが最近は、一人旅はおろか、旅すらできていない。
これは悲しいことだ。心は旅を求めているのに。
でも、大学の講義とか、レポートとか、すべてをすっ飛ばして単身電車に乗る度胸はまだない。何よりもそのことが悲しい。
そんな私の気持ちを汲み取ったのか、代わりに旅に行ってくれた存在がいる。iPhoneちゃんだ。
電車で眠りこける私をよそに、パンツのポケットから這い出て、そのまま旅立ってしまった。
乗り換えた車輌でようやくそのことに気づいたものの、時すでに遅し。電車は発車したあとだった。
先の電車で隣に座っていたおじさんが、車内で私のiPhoneちゃんを持って手を振っていた。一瞬で眠気が飛んだ。あの光景は、とうぶん忘れられないと思う。
今の世は便利なもので、情報さえ打ち込めば、他のiPhoneから私のiPhoneちゃんの現在地が分かるらしい。
悪いほうに使おうと思えばどこまでも行けそうな機能である。ちょっとこわい。
それによると、どうやらiPhoneちゃんはそのまま電車に乗って、終点まで向かおうとしているらしい。長いこと電車に揺られているけれど、寂しくはないだろうか。
しばらくして、お願いしていた駅員さんから電話がかかってきた。
iPhoneちゃんは終点の駅にたどり着き、無事に宿泊先も決まったようで。明日の朝一でまた電車に乗って帰ってくるとのことだった。
翌朝、父が近くの駅まで迎えに行って、iPhoneちゃんの一人旅は終わりを告げた。
ずっと連れ回していたから、たまにはひとりになりたかったのだろうか。
私が行ったことのない場所までひとりで遠出して、素敵な景色は見られたかしら。
いつか、聞いてみたいと思う。
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