#4 薄まらない


 ふと思い立って、インターネットの海に泳がせていた 2018年の自分が書いた文章をいくつか読んでみた。


 そういえばこんなこと思ってたなあ。そういえばこんなこと書いてたなあ。なんて、懐かしさと新しさがぶわっと襲ってきたりして。

 だって、書いたという事実ははっきりと記憶していても、その内容なんてほとんどどこか遠くへ行ってしまっている。ちょっぴり切ない。記事を読む限り、去年の私はどうやら「忘れる」という機能に興味津々だったようで。そういうところはほんと変わらない。


 でも、そんなふうに忘れていたことも、ひとたび読んだら鮮明に思い出せる。あのころの自分の感情だったり日常だったりが、これでもかと言うくらいにぎゅっと詰まっているから。

 綴った文章そのものは、きれいに着飾ろうとした跡がはっきりと見てとれるけれど、それだけじゃ隠し切れないくらいに自分の気持ちが滲み出ていて、電車でひとり恥ずかしくなってしまった。



 あんたと同じ感情を未だに抱えてるよ。時間は解決してくれなかったよ。今日も明日もひとつ飛んで明明後日もモブしてるよ。自分のことはそんなに好きになれてないし、色んなものに憧れて思いを馳せては絶望してるよ。あんたが書いた文章読んで苦しくなるくらいには、今もそれなりにしんどいよ。


 でも、変わったこともあるよ。分かんないけどたぶん3mmくらいはかわいくなったよ。好きなものも好きなことも好きなひとも増えたよ。できるかなんて知らないけど、最近は恋がしたいなんて思いはじめちゃってるよ。大学は相変わらずレポートと課題が鬼のようにあるけど、そこそこたのしいよ。


 それに、久しぶりにあんたが書いた文章読んで、自分でも好きかもって思えたの。自分のこと、今までよりはちょっとだけ好きになれるかもしれない。どこかに意味はあるよ。ありがとうね。



 言葉って、文章って、おもしろいなあ。大切にしたいなあ。

 これもたぶん、来年あたりに電車のなかで読んでひとり恥ずかしくなってるんだろう。そのときが楽しみだ。

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