第40話 海門突破

 前回は雛子さんのセックス事情について述べたが、今回も同様にそれについて語っていく予定だ。


 古今東西、雛子さんは色々な男性とセックスを頻繁に行ってきた。元婚約者や清太郎君、彼の実父、伯父、叔父、部活の先輩、同級生、元彼の売れないバンドのボーカル、テレビ局のプロデューサー……とにかく数え切れないほど多くの男性のソーセージから苦いミルクを大量に搾り取ってきた。


 そうした行為のほとんどが、実はコンドームを使わずに、生の状態で実行されている。


 雛子さんはコンドームのことを「真面目な人が使うアクセサリー」程度に考えており、真面目ではない彼女は自ら男性器への装着を提案などしない。

 別に、体外へ出すようにお願いすることもなく、発射の位置やタイミングは全て男性側に任せている。基本的に、口内と肛門以外なら、好きなだけ注いでOKだ。絶倫でも早漏でも料金は変わらないので安心して構わない。

 ときどき、行為を終えて着衣した後に予期せぬタイミングで色々な体液が股から零れてしまう事態を除けば、雛子さんはゴムなしセックスが大好きだ。


 ではなぜ、雛子さんはそんなことを繰り返しているのに妊娠しないのか。

 清太郎君も常々謎に思っている。

 卵子やそれを形成する器官に何かしらの異常があるのではないかと疑っているが、清太郎君は未だ正解へ辿り着いていない。


 以下、ネタバレ注意。


 実は、雛子さんの体内で分泌される液が、非常に毒性が強く、子種を死滅させてしまうのだ。

 この粘液が子宮の入り口を隙間なく塞いでおり、一生懸命泳ぐ精子軍が侵入するのを妨害している。


 医療器具などを使わずに雛子さんを孕ませる難しさを例えるならば、高加速荷電粒子ビーム砲やレールガンを配備した完全閉鎖状態の武装海門をゴムボートだけで突破するようなものであり、すでに多くの精子が無駄死にしている。近づいた瞬間、消し炭になるではないか。


 雛子さんがコンドームをあまり使わないのは、彼女が本能的にそれを察しているせいだ。男性が「したい」と言えば拒まず、例え相手が義父だろうと叔父だろうと、彼女は躊躇いなく迅速に受け入れてくれる。

 そのおかげで、清太郎君は雛子さんと出会ってから自慰行為をしたことがない。彼が何も言わずとも「そろそろ溜まった頃でしょ?」と勝手に始まる。雛子さんは清太郎君が大好きだ。そんな雛子さんを、清太郎君も大好きだ。


「リア充爆発しろ」という諺は、こうした愛し合う二人の間に形成されるトリニトロトルエンが何らかの負のエネルギーに触れることで爆発するというメカニズムを経て実現している。

 そのため、清太郎君夫婦はトリニトロトルエンをうっかり生成しないよう、注意を常に払っており、ハーバー・ボッシュ法をこの世界に広めない方針で生活し続けている。


 大抵、アダルトビデオを含め二次元のセックスというのは、かなりのファンタジィ要素を孕んでいる。雛子さんの体内も、その一種だ。


 こうした設定やストーリーなど、全ての創作物は、誰かの妄想によって生まれている。

 そして、自分を満足させる何かを補完させるために、妄想は膨らむのだ。既存のもので満足できなければ、自分で作ればいい。

 そうして他人に見える形になった創作物は「なるほど、君が求めているのは、こういうものなんだね」と、感慨に浸らせるのである。


 注意点だが、こういう創作物を見た者は、その設定を現実の知識として鵜呑みにしてはいけない。


 かつて、アダルトビデオを視聴した清太郎君も「女性は快感だと大量の潮を吹く」と思っていたが、実際は女優さんが撮影前に水やらスポーツドリンクやらを飲んで仕込んでいるらしい。


 そんなわけで、今回の授業は終了である。


 ところで、この小説ももうすぐ十万文字に達しようとしている。

 え、これ小説なの? という純粋な読者が感じるであろう意見は放っておいて、清太郎君夫婦は異世界生活を貫いたつもりだ。現代日本の滅茶苦茶なファンタジィ要素も多々含まれていたが。


 これだけの文字数があれば、要項の条件を満たし、Web小説コンテストにも応募できる。

 果たして、応募してしまうつもりなのか。


 異世界転移系小説の新しいジャンルを開拓しようとして、実験的に清太郎君と雛子さんを転移させてみたが、いかがだっただろうか。


 そもそも、新しいジャンルを拓くなら、別に異世界転移でなくても良いような気もするが。

 例えば、陸上に侵出してきたメダカを倒す話とか、人間がインフルエンザと結婚してイチャイチャする話とか。いや、書かないけど。


 結局、何が言いたいのかというと、十万文字も小説を書くのは大変なのだ。ここまで読み続けてきた読者なら分かるだろう。これが、約十万文字だ。


 簡単に十万文字を達成する一番の近道は、好きなものを好きなだけ書き出すことだ。

 それが他人の目にどう映るかなんて気にせず、妄想したことをそのまま描写すればいい。


 清太郎君が好きだ。

 雛子さんも好きだ。


 ここまで、十万文字目指して、好きなものを延々と書いてきたつもりだ。

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