第32話 魔法少女格闘家ちゃん

 前回までのあらすじ。

 清太郎君は格闘家ちゃんを、家に連れ込んだ♥


 否、あまり変な意味で捉えないでほしい。伝えられる情報が活字のみで映像が含まれていないだけに、読者が余計な想像をしてしまう♥

 前回の出来事に補足すると、当時は雛子さんも一緒だったし、決して卑しい気持ちなどない。


 あのゴブリンの赤子が産まれた性器が現在どうなっているのか、という興味はあったが、無理矢理に服を剥がしてまで観察しようとは思っていない。もしそれを実行するならば、雛子さんがNGを出している肛門プレイへ勝手に手を出すほどの覚悟が必要であり、迅速な判断と柔軟な対応が求められる。


「でもさ、お客さんが泊まれる部屋なんてあったかなぁ?」

「え、あの空き部屋でいいじゃん?」

「でも、掃除してないし……」


 実は、清太郎君の家には、一つ空き部屋が存在する。二人で「子どもが生まれたら子ども部屋にしようね」と決めていた部屋だ。

 シングルベッドが一つポツンと置かれているだけで、後は何もない。掃除もしてないので、埃がたっぷり溜まっている。


「ここが我が家でぇす」

「おじゃまします」


 雛子さんは格闘家ちゃんを家の中に入れると、玄関の扉を閉めた。


 そのとき、清太郎君の目の前に、ハラリと何かが落ちてくる。

 雛子さんの、ブラジャーとパンティだ。


「えっ?」

「ふぅ、暑かった暑かった」


 おおっ。

 もう脱いでしまうのか、雛子さんよ。


 雛子さんは一瞬にして衣服を脱ぎ捨て、全裸で廊下を歩いていく。

 自分が自由になれない家など、家ではない。雛子さんが掲げる「自由の象徴」の最たるものこそ、彼女自身の全裸姿であり、心の奥底に淀んでいた全てを解放できる。

 たとえ、それが旦那の目の前だろうが、飼っている猫の目の前だろうが、客の目の前だろうが、雛子さんは室内で全裸にならないと気が済まない。


 さすがに、ゴブリンを産むという波乱万丈な人生を過ごしてきた格闘家ちゃんも、突然の雛子さんの全裸には動揺を隠せない。


「えっ、あの、あれ……!」

「ごめんね。家では大体あんな感じなんだ」


 清太郎君はフォローに回る。


 だが、雛子さんの暴挙はこれだけに留まらない。


 ブビッ、ブビィッ! ブビィッビビビーッ!


 今のは、雛子さんの放屁ほうひの音だ。活字にすると、大体こんな感じになる。こんなもの活字にするな。


 稀に、「ブボーン!」とか「ドカーン!」とか「ズドドドドド!」という凄まじい音を伴った放屁をすることも確認されている。それが銃声や爆発音に似ていることから、清太郎君はこの現象を「砲屁ほうひ」、「戦闘員」、もしくは「世界一平和な紛争地帯」と呼んでいる。


 このように、自宅にいる雛子さんは遠慮を知らない。公共の場では絶対にできないようなことを、家では容赦なく連発する。


 雛子さんによる弁明では、この行動を「アイドルとして清楚を演じてきた反動」とされている。

 さすがにライブ中や握手会では音を立てて放屁できない。しかし、生理的な現象を我慢するのは体に毒であるため、雛子さんはパンツの中に消音材を忍ばせていたこともある。やがて仕事が終わり、接客やアイドルグループ内の確執によるストレスを限界まで溜め込んだ雛子さんは、帰宅後にその消音材を恋人に嗅がせてそのリアクションを楽しむ、というストレス解消法を行っていた。


 清太郎君も、一度それを受けてみたことがある。


「これ、良い匂いがするから、嗅いでみて」

「……」

「どう?」

「……うん、いいんじゃない?」


 清太郎君はどう返事をすべきだったのか、未だ分かっていない。


 こんな経験からか「本当に清らかな人間は、アイドルになんてならないのだろうな」と清太郎君は思うのである。

 そもそも、人間の「清らかさ」とは何なのだろうか。少なくとも、生物的な観点から見た話ではないだろう。人間は常に菌など多くの微生物を体内に抱えており、清らかとは言い難い。おそらく、「清楚」とは人間の内面を指す言葉だと思われる。そんなこと、分かっているぞ。


 雛子さんの本性を知っている清太郎君から見ると、一部のアイドルファンがアイドルに清楚さを求めているのが不思議である。「君は彼女の屁の臭いを知っているのか」と。


 とあるイケメン俳優を推している熱烈な女性ファンが、その俳優のデビュー作となったヒーロー特撮をなぜか視聴していないくらいに不思議である。「そんなに彼が好きなら、どうしてライダーや戦隊は見ないのか」と。


 確かに、ファンタジィな特撮は冒頭で強引に設定を盛り込むためか、視聴者を引き付けにくい展開があるかもしれない。それに、スーツアクターは俳優とは別人で、派手なアクションは俳優のものではない。特撮作品は放送期間も約一年と、三ヶ月のドラマと比べれば追い続けるのに苦労する。しかし、一度それを受け入れてしまえば、徐々にハマっていくのだ。

 二話連続で特撮の話を入れるな。


 結局、何の話をしていたのかというと、ライダーや戦隊の前に放送される格闘魔法少女アニメも面白い、ということだ。


 格闘家ちゃんも、正義を信じる心さえあれば、きっと不思議な力で魔法少女に変身できる。

 怪人や半魚人を倒し、人類の未来を導くのだ、格闘家ちゃん!


 次回へ続く。


【次回予告】

 清太郎君と雛子さんの正義の心はすでに失われているため、怪人になれる素質が十分に存在する。


 ついに明かされる驚愕の真実!

 桐倉有紗の事故を引き起こしたのは誰なのか!

 ニーズヘッグ型怪人の正体、次週判明!


 次回、「第33話 ユリウス散る」。

 乞うご期待!

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