第24話 トロフィー入手条件
前前回の補足をしておく。
雛子さんには婚約者がいたという話だが、いつの間にか疎遠になって婚約解消してしまった。婚約指輪は業者に買い取ってもらい、そのお金で有名なヘッドスパに行ったことは覚えているのに、婚約者と別れた根本的な原因はあまり覚えていないのである。
「その相手って、どういう人だったの?」
「買い物ロケで知り合った有名人で、俳優をやってた気がする」
「ふーん」
「天然ダイヤの指輪をくれたんだよ。売っちゃったけど」
「そのお金はどうしたの?」
「ヘッドスパで使った」
「気持ちよかった?」
「うん。眠っちゃうほど気持ちよかった。清太郎君にも体験させてあげたかったなぁ」
そんなことを、雛子さんは朝食で語っていた。
ここで問題です。
雛子さんが婚約者と別れた理由を、次のうちから選べ。
①デート前、雛子さんはニンニク料理を食べて歯磨きもせず、デート中に観覧車でキスをした。
②雛子さんが一人暮らしをしているマンションの部屋がゴミ屋敷だった。
③雛子さんの作る料理には、大抵調味料が入っていない。素材の味だけでどうにかなると思っている。
④雛子さんは劇場版アニメのアテレコに挑戦したことがある。棒読みが酷すぎて、原作ファンの怒りを買った。
⑤雛子さんはFPSが好きだ。LMGが好きだ。掃射して敵を薙ぎ倒すのが大好きだ。
⑥雛子さんはFPSをするとき、熱中して体が火照る。クーラーをかけ、全裸になり、ソファの上であぐらをかいてプレイするのだ。
⑦雛子さんはナメクジを憎んでいる。いつか巨大強化外骨格を纏って高く飛び、上空からナメクジの群れをレールガンで一掃してやりたい。
⑧雛子さんは「井の頭公園の池に半魚人が出没する」というドッキリにかかったことがある。
⑨雛子さんが所属していたアイドルグループの歌唱力は、控えめに言っても皆無に等しい。音楽業界で生き残れてきたのは、作曲家のおかげだ。
⑩雛子さんは有名な占い師に「井の頭公園から半魚人が攻めてくるぞ」と予言された。
⑪雛子さんの喉元にキスをしながら脇をくすぐると、「雛子パーツ」を入手できる。それをカセットに差し込めば裏エンディングに行ける。
⑫いい加減、書きたいことが尽きてきた。
⑬武具店の裏路地の梯子を昇ると、そこに宝箱が隠されている。そこにはコスチューム「雛子さんのアイドル服」が入っており、それを着て戦闘に30回参加するとトロフィーを獲得できる。
⑭実は、エルフのお姉さんからトロフィーを購入することが可能だが、そのためには彼女との親密度をMAXまで上げる必要がある。
⑮今月に配信されたDLCを購入すると、格闘家ちゃんのアフターストーリーを楽しめる。修道院に届けられた彼女のその後を見てみよう。
⑯万が一、クラス転移してしまったら、目の前に現れる魔術師の老人の話を信用してはいけない。
⑰一体、何の攻略情報だ。
⑱そろそろ新キャラ追加してもいいかもしれない。
⑲やはり、まともな作品を書こうかな。
⑳正解は「雛子さんが婚約者の実家に泊まったとき、風呂上がりに全裸でキッチンを歩き回って冷凍庫のアイスクリームを探し、ご両親の前で盛大に屁を鳴らした」でした。
正解は⑳でした。
回答者には、20雛子ポイントをプレゼント。
正解者には、さらに200雛子ポイントを進呈。
いや、勘違いしないでほしい。
雛子さんは独特なコミュニケーションをとる女だ。敢えて下品に振る舞うことで、相手の家族はどれだけ自分のことを許容できるかを計測していた可能性がある。自分が寛げない家は、「家」ではない。自由気ままな生活を許してくれることが、雛子さんの掲げる結婚条件だ。
そんな雛子さんを、清太郎君は愛している。
清太郎君の両親は雛子さんをどう思っているかというと、別に気にしていない。むしろ、喜んでいる。
あの口下手な清太郎君と結婚してくれるなら、誰でもよかったのである。30歳以上年齢が離れていようが、性格が悪かろうが、家がゴミ屋敷だろうが、大した問題ではない。
一方で、雛子さんの両親も清太郎君を歓迎していた。娘の内面的な酷さを重々把握していた両親は、彼女と結婚してくれるなら誰でもいい、という境地に至っていたのである。
お互いの両親は、自分の子どもと結婚する時点で、相手の内面的な酷さを察していた。「ウチの子と結婚してしまうなんて、相手も相当変態なのだろうな」と。
今日も、清太郎君は雛子さんの出したゴミを無意識的に片付けている。
「ただいま~」
「おかえり」
「ふぅ……暑い暑い」
雛子さんは玄関で鎧や下着を脱ぎ散らかす。清太郎君はそうした装備品も然るべき場所へ戻しておく。鎧は傷がないか確認して丁寧に磨き、パンティは手洗いして室内に干した。
それから清太郎君は雛子さんが使った後のトイレを掃除する。ちなみに清太郎君はトイレ掃除が大好きだ。「このトイレで雛子さんが排泄した」と想像するだけで興奮するからだ。一体、今日はどれくらい出したのだろうか、どんな色だったのだろうか、どんな匂いだったのだろうか、どんな硬さだったのだろうか。気になる。
「じゃあ、私はちょっと寝るから」
「うん……分かった」
そうした掃除や洗濯の見返りとして、雛子さんは清太郎君に自分の肉体を観察できる機会を与える。
ベッドの上で大胆に足を広げ、寝息を立て始めた。ようやく訪れた清太郎君のフリータイム。雛子さんが痛がるようなことをしなければ、基本的に何をしてもオーケーだ。
今日の研究で、「女性」という生物をさらに詳しく解析できた。
いつか雛子さんの生態メカニズムを完璧に把握できる日も近いだろう。そうすれば、雛子さんと心の距離をもっと縮め、人類の進化に貢献できるはずだ。
清太郎君は本日分の観察を一通り終了すると、お茶を淹れて窓際に腰かけた。近所の子どもたちが外で遊ぶ様子が見える。何と穏やかな農村風景。
こんな日々を、ほぼ毎日続けている。
こうして清太郎君は、トロフィー「変態的研究者」を獲得した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます