第12話 枕
前回までのあらすじ。
清太郎君と雛子さんは、ゴブリン討伐からギルド集会所に帰還し、報酬を受け取った。普段のスライム討伐とは比較にならない額のお金が、ポンと懐に入ってくる。清太郎君と雛子さんは大いに喜んだ。帰りに酒場で夕食を済ませたが、まだまだ沢山のお金が残っている。
これだけお金があれば、しばらくはスライム討伐をしなくても、自由に生活できるはずだ。「明日はたっぷり昼寝をしよう」と、夫婦で杯を交わして誓い合う。人類史上、最も志の低い誓約である。
「あぁ、疲れた」
「家に帰って、お風呂に入りましょ、雛子さん」
それから無事に帰宅し、清太郎君と雛子さんは風呂に入る準備をしていた。
腕や足に疲労が蓄積されており、ゴブリンの巣に漂っていた悪臭なども肌や髪に移ってしまっている。雛子さんはそれを早く洗い流したかった。
基本的に、清太郎君と雛子さんは風呂へ一緒に入ることが多い。風呂を温めるために使う薪を節約するため、良い湯加減のときに二人同時に入浴する。
「雛子さん。湯加減、いい感じになりましたよ」
「よし、入りましょ入りましょ」
脱衣所にて、雛子さんは清太郎君の見ている前で恥じらいもなく服をバサバサと脱ぎ始める。10秒も経たぬうちに雛子さんは全裸になり、服は籠の中へ放り込まれた。
早脱ぎは雛子さんの得意技である。歌もダンスも料理も裁縫も下手な下手な雛子さんであるが、これだけは非常に上手い。素早く衣服の特徴を捉え、的確に手足をくねらせる。絶妙な力加減が求められる難技を軽々とこなし、肌が空気に晒される解放感を得るのだ。「すぐ脱げるアイドル」なんて、危ない響きかもしれない。
そんな雛子さんの早脱ぎを何度も拝見している清太郎君は、彼女の裸体に何も思わない。
飼育しているメダカの産卵を見たときも、最初の一回は感動するのだが、条件さえ揃えば毎日産むため、徐々に感動は薄れていく。
あの感動していた昔の自分に言ってやりたい。「お前、それを毎日見ることになるんだぞ」と。雛子さんの裸体は生活風景なのだ。逆に、服を着ている雛子さんの方が珍しいかもしれない。
「それじゃ、入りまーす」
雛子さんは清太郎君の前を通り過ぎようとした。
そのとき、清太郎君の目は雛子さんの股に釘付けになった。
「待って、雛子さん!」
「え?」
「雛子さんのアソコ、よく見せてください!」
「へ?」
清太郎君は雛子さんの股を広げさせ、下から彼女のアレを凝視した。
「ここから、あんなのが出るなんて……」
「あの、清太郎君?」
清太郎君の脳裏には、ゴブリンの幼体が産まれる瞬間の映像が焼き付いている。
限界まで広がった穴。
緑の肌を持つ赤子。
悲鳴を上げる格闘家ちゃん。
興奮する自分。
こんな小さな穴から、あんな大きな赤ちゃんが出てしまうのか。
やはり「百聞は一見にしかず」だ。セックス時にまあまあ広がる穴ではあるが、出産時にはさらに拡張する。何とびっくり。高名な探検家が求める生命の神秘とは、この穴に集結していたのか。
「あの、そろそろお風呂に入りたいんだけど」
気が付けば、眺め始めてから数分が経過していた。
「ごめん。もう少しだけ見ていていい?」
「ええっ?」
研究モードのスイッチが入った清太郎君は、空腹や睡眠も忘れて研究対象の観察に没頭できる。あらゆる邪念が完全に消失し、プロ棋士にも負けない集中力で対象の特徴を脳内に刻んでいく。
一方、雛子さんは焦りを感じていた。
早くお風呂に入りたい。
それに、まだ身体を洗ってないため、そこから漂う匂いも相当酷いはずだ。清太郎君はどう思っているのだろうか。
「臭くないの?」
「この匂いも含めて、面白いんだよ」
「お、面白い?」
「うん。面白い」
「やだぁ、すごい変態」
「何か、いつまでも見てられるね」
「ここを?」
「うん。芸術性がある」
「そうかなぁ?」
「これまでの人生で、一番綺麗な景色だと思う」
「ナイアガラの滝とか、富士山よりも?」
「あんなの、しばらく見ていたら飽きるよ。でも、ここだけは永遠に飽きない気がする」
「何かさ、清太郎君って、特殊だね」
「自分でもそう思う」
旦那に、自分の股を凝視されている。
そんな状況に、雛子さんは不意に羞恥心を感じた。
アイドル活動時期、雛子さんは枕営業で多くの紳士に自分の生殖器を見せていたこともあった。
加齢臭フィールドを最大出力で展開する毛穴に包まれながら、自分は淫乱なキャラを演じる。セックス自体はまあまあ好きだったので苦痛ではなかったが、年齢に似合わず絶倫で息の臭い殿方に付き合うのには疲れた。
当時の枕営業でも僅かながら羞恥心はあったが、今回のは別の羞恥心な気がする。
今回は、淫乱なキャラになることができない。清太郎君はそれを求めていない。
自分は研究されている。
普通、凝視からオナニーやセックスに繋がるが、今の清太郎君からは性的興奮を感じ取ることができず、ひたすら一点を眺めているだけだった。
何をそんなに真剣になっているのだろう。
雛子さんの理解の範疇を越える奇妙な行動である。恋人が自分に興味を失っていないことは嬉しいが、その興味も度を過ぎると謎に変わる。
「ほら、いい加減、お風呂に入りましょ」
「うっ」
こんな謎の行為に雛子さんは付き合うのも馬鹿馬鹿しくなり、清太郎君の頭に軽くチョップを繰り出した。
それから、雛子さんはかけ湯して、高く飛沫を上げて風呂に飛び込んだ。
「あああーっ! 温かい!」
「……」
これぞ、心象風景。
清太郎君の脳裏に浮かぶ雛子さんは、いつでも生まれたままの姿なのである。
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