第31話 もう一つの聖地
「ふーっ、やっと着いたぁーっ!」
オルフェル山の大森林を抜け、ようやく街道まで戻ってきた。
「ラマニア
「ご心配をおかけしました。随分とお待たせしてしまい、申し訳ありません」
そう言えば森の外でクィエール領の衛兵隊の人達を待たせてたんだった。
急遽お泊まりになっちゃったから、ずっと俺達の帰りをここで待たせる事になって悪い事をしたな。
森の中での出来事を報告しながら俺達は車に乗り込み、クィエール駅へ向かった。
車が走りだすと俺とラマニアはついウトウトとしてしまったが、割とすぐに車は駅に到着し、深く眠る前に俺達は車を降りる事になった。
「クィエール領に来て、エルフの聖地以外は車移動だけだったから、ほとんどこの土地は見て回らなかったなぁ」
「そうですね。このクィエール領は色々と美味しい食べ物が多い土地ですので、帰る前にどこか一つ寄って行きましょうか?」
「いいね!何が名物なの?」
「たしか……クィエールブルの肉団子焼きとか、ミドンド風の皮包み焼きとか…………」
料理名だけ聞いてもまるでイメージが湧かないが、「肉団子焼き」というのは美味しそうな響きだ。
じゃあ、それを食べに行こうか。
そう言おうとした時、ラマニアの表情が神妙になっているのに気づいた。
「………………」
「ラマニア?……ティアロさん?」
ラマニアだけでなく、ティアロさんも微妙に険しい表情になっている。
「まさか!?」
「リン様!『炎』の気配を感じます!!」
「場所は!?どっちの方角!?」
「方角はおそらく……王都キーストのほうだと思います」
俺は急いで『スペルマップ』を出し、王都キーストの辺りを表示する。
すると黒い煙の立ち上るエリアを見つけた。
「ここは……キーストのフリタオ地区の辺りですね」
「なんですって!?すぐに!!急いで向かいましょう!!」
なんと、今までずっと無表情だったティアロさんが急に大きな声をあげた。
「ティ、ティアロさん?」
「いいから、早く!!」
「は、はいっ!!」
俺達は急いで駅の改札を通り、キースト行きの高速鉄道に乗り込んだ。
キーストまでの所要時間はおよそ一時間弱だが、一度列車に乗ってしまえば後は座って待つ事しかできず、はやる気持ちを押さえつけて堪えるだけだった。
それにしても、さっきのティアロさんの焦りようは一体なんだったんだろう。
いや、今でも窓の外を眺めてソワソワとしている様子だ。
あれは『炎』の発生場所がキーストのフリタオ地区だと判明した時だったと思う。
『炎』の発生自体は門の乙女であるティアロさんもラマニアと同じタイミングで察知していた様子だったし。
フリタオ地区には何かあるんだろうか?
例えばティアロさんの知り合いが住んでいるとか……。
聞いてみてもいいものかどうか悩んだが、列車はまだ出発したばかりだし、ダメ元で聞いてみよう。
「あの、ティアロさん。王都キーストのフリタオ地区って、何かティアロさんにとって特別な場所なんですか?」
「………………」
ティアロさんは一瞬だけ俺のほうを見たが、すぐにまた視線を窓の外に向けてしまった。
やっぱり駄目か。
「……………なのよ」
「えっ?」
視線は窓の外に向けたまま、ティアロさんが呟いた。
「フリタオは聖地なのよ」
「聖地?」
たった今クィエール領にあるエルフの聖地から帰ってきたばかりなのに、王都キーストにも聖地が?
混乱している俺にラマニアが説明してきた。
「エルフ族の方々はあのオルフェル大森林にだけ棲んでいるわけではありません。あれはエルフの中の一つの部族というだけで、世界中にエルフの集落はあると聞いています」
「そ、そうなのか」
「もっとも、自然の恵み豊かな土地にしか居を構えないと言われていますので、どこにでもというわけでは無いです………ですので、キーストの中にエルフの聖地があるという話は聞いた事が無いのですが」
たしかに王都キーストは大都会で、とても「自然の恵み豊か」という表現とはかけ離れている。
そんな都会の真ん中にエルフが住んでいるのか?
「違う。そういう意味じゃない」
俺達の会話を聞いていたティアロさんが、ようやく会話に参加する姿勢を見せてくれた。
「王都キーストのフリタオ地区……、そこは私がずっと憧れていた場所。このサンブルク王国で、いえ、この世界シェインヒールで一番の『オタクの聖地』なのよ!!」
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