第32話 守るべきもの

 オタクの聖地……。


 つまり俺の世界で言うところの秋葉原みたいなモノか?


 そう言えばモフカーニさんも、最近のエルフは皆それぞれの趣味を持っているって言ってたな。



「まあ?私のジャンル的には、私にとっての本当の聖地はバポッド地区と言えるのかもしれないけど、それでもやっぱりフリタオ地区は老若男女ろうにゃくなんにょ、全てのオタクの原点、オタク文化を世界中に広める出発点ともなった聖地である事に変わりは無いわ。だからジャンルがどうとかそんな利己的な問題じゃなく、オタクである以上、最大限の敬意を払うべき街、それが聖地フリタオなのよ!!」



 興奮しているせいか急に饒舌に語り始めちゃったティアロさん。


 俺の世界風に翻訳すると、「ジャンル的には池袋派だけど、だからと言って秋葉原がどうなってもいいと思ってるわけじゃないんだからねっ!」といったところか。


 まぁ人の趣味に文句を言うつもりも必要も無いし、俺だって漫画やアニメ、ゲームにラノベも大好きな立派なオタクだから気持ちはわかる。



「わかりました。必ずフリタオを守りましょう!」


「当然よ!」


「は、はい!」



 若干ラマニアだけがこのテンションに乗り遅れた感じとなったが、ラマニアはラマニアで自分の国の街を守るという、ティアロさんとは別ベクトルではあるが高いモチベーションがあるため、結果として全員の団結力は強める事ができた。






 クィエール駅を出発して約一時間。


 俺達は王都キースト、フリタオ地区に到着した。


 大通りには多くの人々が往来している。


 この地区に足を踏み入れた瞬間、ムワッとした熱気を感じたが、果たしてそれは『炎』によるものなのか、ここに集った紳士淑女から発せられるものなのかはわからなかった。



「フ……そんな事、『炎』を鎮火すればわかる事だわ!」



 俺としてはできれば『炎』によるものだと信じたい。


 気を取り直して、スペルマップで『炎』の中心部を探り当てる。


 そこは二つのビルに挟まれた、狭い路地だった。


 念のためキーストに到着してから招集して同行してもらった王都衛兵隊の皆さんに周囲を一時封鎖してもらい、鎮火活動ちんかつが終わるまで立ち入り禁止とした。



「よし、始めるか。この『炎』の規模なら、ブルウッド領の時ほどじゃない」


「はいっ!!」


「待って、リン。ラマニア姫」



 気合いを入れて鎮火活動ちんかつ体勢に入ろうとする俺とラマニアをティアロさんが制止した。



「リン。せっかくだし、今回は私として。今後何があるかわからないし、私との聖交渉セクルスにも慣れておいたほうがいいわ。それに私自身、未経験だから一度経験しておくべきとも思うの」


「そ、そうか……」



 俺はラマニアと目を見合わせる。


 ラマニアは少し複雑そうな表情をしたが、すぐに顔を縦にふった。



「そうですね。ティアロさんの仰る通りだと思います。では今回は私は、お二人のサポートをします」


「わかった!………じゃあティアロさん。準備はいい?」


「ええ!………でよ!『聖門ミリオルド』!!」



 ティアロさんが両手を植えに掲げて唱えると、その手の先から光の縦筋たてスジがスウッと現れるのだった。

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