第29話 新たな仲間、ティアロ

 翌朝、モフカーニさんの屋敷の玄関ホールに呼ばれて来てみると、目を疑う光景が待っていた。


 それは山のように積まれた段ボールのかたまりだった。



「な、なんだこれ………」


「おはようございます、リンさん。ラマニア姫」


「モフカーニさん、これは?」


「お約束の『エルフの霊薬』です」


「こ、これ全部?」


「はい。全部で500本あります。ちなみにこれが実物です。試しに一本どうぞ」



 そう言ってモフカーニさんはふところから小瓶を一本取り出し、俺に差し出した。


 聖力回復の効果があるらしいし、お言葉に甘えてその小瓶の中身を飲んでみる事にした。



「んっ………あ、意外に美味しい」



 この味は………例えるならエナジードリンクみたいな感じだ。


 聖力がどうかはともかく、確かに身体が回復しそうな飲み物だと思った。


 けど、そんな事は置いておいて、これだけの量の段ボールをどうやって持っていけばいいんだろう。



「それならご心配なく。ティアロ!」


「はい」



 モフカーニさんが誰かの名を呼ぶと、すぐに廊下の奥から一人のエルフの少女が現れた。


 随分と小柄で、俺達人間の外見基準でいうと十代前半、小学生から中学生くらいに見える。


 髪は他のエルフと同じく美しい金髪で、それをツインテールに結っていた。


 顔は無表情で、なんとも無愛想な印象を受ける。



「ご紹介します。この娘はティアロ・ラドールシュ。ご迷惑でなければこの娘をお二人のお供として同伴させたいのですが」


「え?で、ですが……」


「ティアロ」


「はい」



 するとティアロという少女は段ボールの山に両手をかざし、その手の先から光を放出したかと思うと次々と段ボールが消えていった。



「お、おおお……」


「ね?便利でしょう?」



 なるほど、これもエルフのもつ特殊能力の一つか。


 つまり彼女は『エルフの霊薬』の運搬要員という事なんだな。



「運搬もそうですが、彼女にはもう一つ、お二人のお役にたてる能力があるのです。ティアロ、見せて差し上げなさい」


「はい。………『聖門ミリオルド』」



 今度はティアロの両手の前に『聖門ミリオルド』の光の縦筋たてスジが現れた。



「これは………!ティアロさんも聖なる門の乙女おとめだったのですね?」


「ええ。このエルフの聖地では唯一の門の乙女です。この能力ちから鎮火活動ちんかつのためにお役立てすべきもの。そして今、『炎』がこの世界に再び出現するようになったのであれば、彼女も協力すべきでしょう」


「何から何まで本当にありがとうございます。ティアロさんのお力、世界のためにありがたく拝借させて頂きます」


「いえいえ。それではラマニア姫、ティアロの事をよろしくお願いします。昨夜お約束したように、私も近いうちに王都へお伺いしますので、落ち着かれましたら一度ご連絡ください」


「はい」



 モフカーニさんと握手を交わし、屋敷の外に出た。


 昨日来た時とは逆で、近代的な屋敷内から幻想的な外の景色が目の前に広がる。


 この外と中の落差は本当に凄いな。



「本当は外の造りもリフォームしたいんですがねぇ。残念ながらこのエルフの聖地は無形文化遺産に指定されてまして、手をつけられないんですよ」



 見送りに出てきてくれたモフカーニさんが俺の思考を読んで答えてくれた。


 そう言えば日本にも何ヵ所か無形文化遺産になってる街があった気がする。


 普通に考えれば名誉な事だと思うが、そこに住んでる人にとっては必ずしも良い事ばかりじゃないって事なんだな。



「それではモフカーニさん、お世話になりました」


「是非またお越しください。道中お気をつけて」



 お別れの挨拶を済ませた俺とラマニアは、新たな同行者、ティアロさんと一緒にエルフの聖地を後にした。


 聖地を一歩外に出ただけで周囲の景色は幻想的な森から普通の森に変わる。


 俺達はオルフェル山に背を向ける形で進み、森の出口を目指して歩き続けた。


 行きの時とは違い、ティアロさんが一人増えた事でなんとなく気まずい空気が漂っていた。


 まだ知り合ったばかりでコミュニケーションが不足している以上、多少は仕方ないのかもしれない。


 なので少しでも早くこの雰囲気を和ませたいと考えた俺は、ティアロさんに話しかけてみる事にした。



「あの、ティアロ……さん?」


「なに?」


「ティアロさんの見た目ってかなりお若いですけど、俺達よりは歳上なんでしょうか?」


「さあ?私はあなた達が何歳なのか知らないから」


「あ、俺は17です」


「私は先月18歳になりました」


「そう。私は69歳」


「へ、へぇ~」



 会話が続かない。


 見た目の通りぶっきらぼうで、必要最小限の事しか答えてくれない。


 これは打ち解けるのに時間がかかりそうだと思い、無理に会話を弾ませるのは諦めて黙々と歩き続ける事にした。

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