第28話 最近のエルフ族とは
「さて、サンブルク王国のラマニア
「あ、ありがとうございます」
奥の部屋から戻ってきたモフカーニさんはとてもご機嫌な様子で握手を求めてきたので俺達もそれに応える。
なんだかペースを乱されそうな雰囲気だったので、早速本題に入る事にした。
「あの、実はお願いがあって来ました。えっと、ヴィアンテ様に教えてもらったんですけど、『エルフの霊薬』というのを譲って頂きたいと思いまして……」
「ああ、なるほど。いいですよ。すぐに用意させましょう」
「えっ?あ、ありがとうございます!」
「いえいえ。せっかくお越し頂いたわけですし、それなりに纏まった数を用意させますので、少しだけお時間を………そうだ。よろしければ今夜一晩、当家へお泊まりくださいな。明日の朝までに揃えておきますので」
「は、はい」
あまりにもトントン拍子に話が進むので、ちょっと拍子抜けしてしまった。
よくわかっていないが、『エルフの霊薬』ってもっと貴重な物なのかと思っていた。
それがこうも簡単に承諾してもらえるなんて……。
「もちろん貴重な物ですよ」
「えっ?」
「おっと、失礼。私は人の心が多少読む事ができますので」
モフカーニさんはニコニコと微笑みながらさらっと答える。
「ですが、こちらこそ貴重な品をお土産で戴きましたからね、それに応えるのは当然です」
貴重な品って、あの新作とやらの事かな?
ホント一体何を持たされたんだ、俺は。
「それはそうとお二人とも、よろしければお話をしませんか?この土地に人族の方々がお越しになるなんて滅多にありませんので、実は恥ずかしながらウズウズしていたのですよ」
「はあ」
なんだかどんどんと俺の中のエルフのイメージが崩れていく。
いや、見た目はイメージ通りというか、サラサラの金髪に尖った耳にイケメンと美女だらけという、いかにもエルフらしい容姿の人達なのだけども。
「ほう?リンさんのイメージするエルフというのは、どういったものですかな?」
「あっ、その、すみません」
またしても心を読まれたようだ。
どうやらモフカーニさんの前では隠し事はできないらしい事がよくわかったので、俺ももう開き直ってぶっちゃけトークをする事にした。
「俺の世界でよくあるエルフのイメージっていうのは……」
俺はゲームやラノベなんかに登場する平均的なエルフ像を説明してみた。
モフカーニさんは「ふむふむ」と相槌を打ちながら興味深そうに聞いてくれている。
そして俺が一通り説明を終えると、「なるほど」と言って膝を叩いた。
「リンさんの考えるエルフのイメージ、それはほぼ間違ってはいませんよ。ただし、今から4~500年くらい前の時代ですが」
「そうなんですか?」
「ええ。そのくらい前の我々は、正直なところ人族を見下していました。それ故にできるだけ人族とは関わらないように生活していたのです」
「今は違うと?」
「はい。特にここ100年くらいの間に、人族の文明は驚くほど発展してきましたからね。ほら、この家の中の物なんて、見覚えのある物も多いのではないですか?」
言われてみれば、確かに大型のテレビやオーディオ機器など、近代的な家具が目立つ。
キーストの王城で見た時は別の意味で「異世界っぽくない」と思ったが、ヴィアンテ様から俺の世界と同じくらいの文明レベルだと説明されてからはすっかりと慣れていた文明機器の数々だ。
「人族の世界がこれだけ便利に発展したというのに、わざわざその文明を取り入れずに古臭い生活を続ける理由も無いですからね」
「なるほど……」
「ただ、それでも我々エルフというのは人族からすれば特殊な存在である事は変わりません。不老長命である事もそうですが、人には使えない能力を持っていたりもしますし、あまり積極的に人族に関わるわけにはいかないというのは今でも同じです」
「それってつまり……」
「国益、もっとはっきりと言ってしまえば戦争の道具にされてしまう事を避けるためです」
ラマニアが否定しようと一瞬身を乗り出そうとしたが、すぐに自重して口を閉ざした。
「申し訳ありませんね、ラマニア姫。もちろん、そんな方々ばかりではないとわかっています。ですが、わざわざ争いの火種になりうるものを、貴女がたの国にもたらす必要もないというのが我々の方針なのです」
「いえ、こちらこそ私達の世界の事をそこまでお考え頂けていたとは、申し訳ない限りです」
「ですが、最近はその方針が逆に我々の生活を窮屈にしているのも事実でしてね。今の我々は人族の世界のテレビ番組も大好きですし、本当ならもっと積極的に最新の技術やエンタメなんかも取り入れたいのです。何せエルフ族は人よりも長生きですから、新しい刺激となる娯楽は大歓迎なんですよ」
そういう事だったのか。
その話を聞いてようやくモフカーニさんの性格というか、このノリにも納得ができた気がした。
モフカーニさん達は本当はもっと人間と関わりたいのだ。
特に最近の人間達の文明は急速に発展を遂げ、長命のエルフからすれば日々の生活にハリをもたらす刺激となりうるのは間違いない。
だけどエルフ族としての方針があるから、それができないでいるのだ。
「今のエルフ族は皆、それぞれ自分の趣味をもっています。私の場合はヴィアンテ様が時々差し入れてくださる新作ビデオですね」
あぁ、ヴィアンテ様のあれはやっぱり映像系のコンテンツだったのか。
グラビアアイドルのイメージビデオのような物かと聞いたら、もっと過激な物だと言ってたけど。
するとラマニアが顔を赤くし、モジモジしながらモフカーニさんに訊ねた。
「あ、あの、モフカーニ族長は、ああいう物がお好みなのですか?」
「ええもう!大好きです!!私以外にも大好きな者も多いですよ。特にヴィアンテ様の三姉妹シリーズは最高です」
「へ、へぇ~」
「我々エルフ族の女性はああいう行為を一生の間に一度しかしませんのでね、要するに飢えているのですよ」
ああいう行為って何の事だろう?
とりあえずエルフの男性には好評だという事はわかったけど。
「さて、そこでラマニア姫にご相談なのですが……」
「は、はい?」
「お話したように我々は今後、できればもっと人間世界の文化・文明を取り入れていきたい。ですが、急に大きな交易を始めるのも危険がある。そこで……まずはサンブルク王室とだけ、物資の輸出入をさせて頂きたいのです。今回お二方がお求めになられた『エルフの霊薬』は、
「本当ですか!?それは願ってもない事です!!」
「その代わりに我々が要求するのは、我々の生活向上に役立つ生活雑貨や娯楽品です。いかがでしょうか?」
「私の一存ではこの場ですぐにお約束はできませんが、その条件であればおそらく反対する者はいないと思います。王都に戻り次第、話を通してみます」
「ありがとうございます。私も折を見て一度王都へお伺いしようと思います」
モフカーニさんとラマニアは再び堅い握手を交わした。
これはサンブルク王国の姫とエルフ族の族長との政治的な商談でもあるので、俺の口を挟む余地はなく、ただ見守る事しかできなかった。
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