第31話「私の思ってたホラーと違う」

「帰り道はこちらです!」


 ジューンちゃんに案内され、地上に向かう。

 ……正直なところ、寂しくもあった。帰りたくない気持ちも、ちょっとだけある。


「また遊びに来てねッ」


 屋根裏への階段を登る途中、ケイトが下から大声で伝えてくる。

 手を振って「もちろん!」と答えておく。


「あと、死んだらここに住むよねッ!?」


 なんか物騒な言葉も聞こえた。

 まあ、楽しそうだなとは思うけど……せめてキャスリーンさんくらいの美女になるまでは長生きしたいので、保留にしておこう。


 屋根裏に辿り着くと、さらにはしごを昇り、むき出しの岩天井に触れる。

 取っ手を横に引くと、岩がガラガラと音を立てて動いた。

 眩い陽光が差し込……むことはなかった。外はまだ夜のようで、空には星がキラキラと瞬いている。


「あっ、見つかりそう!ㅤ早く早く!」

「えっ!?」


 ジューンちゃんにふわっと魔法? みたいなもので浮かされ、地上に放り出される。

 なんでもありだね、ほんとに。


 そして、今度は懐中電灯の光に照らされた。

 警察官の人が慌てたように、「大丈夫かい!?」と聞いてくる。

 どうやら、心配したお母さんが警察に通報していたらしい。……まあ、高校生の娘が帰ってこなかったら、心配になるのも仕方ないか。非行らしい非行もしてなかったし……。


 何はともあれ、私の冒険は終わった。

 家でお母さんに根掘り葉掘り聞かれたけど、「うっかりマンホールに落ちちゃって……」とだけ、言っておいた。




 次の日、学校に行くと、本人が言ったとおり「恵子」の姿はなかった。周りの友達に聞くと、「誰?」とすら言われる始末。

 なんだか夢だったような気もするけれど、ぽつんと空いた席と、ほかのクラスメイトの記憶から消えた「玲門 恵子」の存在が、むしろ真実だったと伝えてくる。


 何もかもが、私の思っているホラーとは違った。……ただ一つ、「行き方がわからない」ことを除いては。

 もう一度遊びに行きたかったのに、どうやったらまた遊びに行けるのかが分からない。入り口を探そうと思うほど見つからないのは、よくあるホラー作品と似ている。




「……〇LEACHでも観てみようかな」


 寂しい気持ちを埋めようと、TSU〇AYAに向かう。誰かさんが好きだと言っていた作品を、私も見てみたくなった。

 アニメのコーナーを探していると、上の方の棚に探していた作品が見える。背伸びをして取ろうとするけど、なかなか手が届かない。……そのせいで、後ろに人が来たことに気づかなかった。

 つまり、ぶつかった。


「うおっ!?」

「あっ、ごめんなさ……ぎゃぁぁあ!?」


 私の足元に、首が転がる。

 何事かと周りの視線がこちらに向かい、即座に体格の大きな影が私(ともう1人)を取り囲む。


「ユージーン、フィリップ、バレなかったか?」

「たぶん大丈夫ッス、カイの兄貴」

「HAHAHA、まったく、アンリはうっかりさんだね!」


 ヒソヒソと話し合う屈強な男3人。


「……ひ、久しぶりだなユキさん。まさか、こんなところで首ポログランギニョルを見せてしまうとは……」


 私の足元で、アンリくんはどこか嬉しそうに語った。

 ……なんだろう。ほんとに、何もかもが……


 私の思ってたホラーと違う!


(「私の思ってたホラーと違う」完)



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