第30話「ケイト、それ自由と違う。無計画や」

 ユージーンさんの手を借りてアンリくんの首を直したところで、ノエさんの演奏が始まった。


 本当に、歌うと人が変わる人でした。

 なんかこう……すごかった。語彙力?ㅤすごい演奏を見るとそんなものは吹っ飛ぶものだよね。

 そんなわけで、私の感想はデスボとシャウトに吹っ飛ばされました。


 ……と、会場が暗転する。


 再びスポットライトがついた時、そこには……


「雪。……来てくれてありがとねッ」


 棒立ちで立ちすくむ、恵子の姿があった。

 そのまま、彼女は上ずった声で語り出す。


「ずっと話さなきゃって思ってた。……ずっと、ずっと、ホントのこと言わなきゃって思ってた」


 マイクを握り締め、恵子……ケイトは、震える声で語り続ける。


「でもさッ、何も知らなかったら……きっと、気持ち悪いって言われる。……怖がられる……そう、思ったら……怖くってさ」


 せっかく仲良くなれたのに。

 ……震える弱音を、マイクが容赦なく拾う。

 スポットライトが、ポロポロと溢れる涙を映し出す。


「雪……ここ、怖くなかったよね?ㅤ案外楽しいトコだったよね?ㅤ……あたしのことも、ううん……「あたし達」のことも、なんとなく分かってくれたよねッ!?」


 叫ぶように、縋るように、怯えすら力に変えるように、その言葉は真っ直ぐ胸に届いた。


 どう、その言葉に答えるべきだろう。

 どう、その思いに応えるべきだろう。

 ……何も、言葉が浮かばない。


 代わりに、大きく頷いた。


「ありがとう」


 そして、自然に溢れた言葉に全てを委ねた。

 私の声を聞き、ケイトはゴシゴシと袖で涙を拭って、舞台から私の方へ飛び込んだ。


 受け止める自信なんてなかったけど、なんとか受け止められた。よく見たら、フィリップさんがケイトの体を支えてくれてた。

 ありがとうフィリップさん。


「やっぱり筋肉は全てを解決するね!」


 ついでになんか聞こえた。


「……最近は夏になると暑いし……あたし……もう、学校に行けなくなるんだ」

「そっか……。じゃあ、私が遊びに来ていい?」


 きっと、その言葉を待ってたんだと思う。

 ケイトはぱあっと表情を明るくして、


「う゛ん゛ッッッ」


 そのまま号泣した。

 隣で、なぜかアンリくんもめちゃくちゃ泣いてた。あれ、向こうの方でアマンダさんも泣いてないかな?


「でも……ここ、生きてる人が長居しても大丈夫なところ?」

「……う゛ー゛ん゛、そ゛こ゛ら゛辺゛は゛わ゛か゛ん゛な゛い゛……」


 ぐすぐす泣きながら、ケイトも首を捻る。

 分からないのに呼んだんかーい!!


「なんか……色々自由にできるかなって……」


 ケイト、それはあかんやつ。

 夏休みのラストだったら宿題がわんさか溜まるパターンだよそれ。


 ──大丈夫だよ。霧島とかもいるし


 権之助さん、また直接脳内に……!?

 そして霧島さんのことがますます分からなくなってきたよ……!?


「霧島さん、長生きですからね~」

「1000歳超えてるように見えないし、すごいよね☆」


 噂の本人は、はしゃぐ巫女さん達の後ろにいつの間にか立っていた。

 手招かれ、視線がそちらに吸い寄せられる。


「……わたくしの術が、あなたに害を及ぼすことはありません」


 静かな、それでもよく通る声が賑やかなホールの中をするりと通り抜け、私の耳へ。


「奇妙な因果ですね。……わが子孫よ」


 霧島さんは口に人差し指を当て、「秘密ですよ」と、穏やかに笑った。

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