エピローグ

 七月の夜の雨が、アパートの窓を打ちつけていた。

 部屋にいたユズルは……ハッとしたように顔を上げた。

 壁のカレンダーを見る。


「……あの日・・・だ」


 ユズルは慌てて立ち上がると、乱暴に傘を掴んでアパートを飛び出した。



 トーマは、自分とユズルが暮らすアパートに急いでいた。

 借りてきたDVDのケースにも、少し雨がかかっている。


「……よく降るな……」


 トーマは暗い夜空を見上げて、溜息をつくと……そのまま、雨の雫に見とれた。

 気のせいか、紫色に光っているように見える。


「……何だ?」


 トーマは自分に何が起こったのか分からなかった。

 気がつくと……両目から涙が零れていた。


「え、何で……」

「――トーマ!」


 声が聞こえ、振り返ると――アパートの方からユズルが駆けてくるのが見えた。

 トーマは、慌てて目を擦る。


「ユズ! 迎えに来てくれたのか?」


 何事もなかったように、トーマはユズルの方に歩き出した。



 ――かつて少女が降りて来た場所に……紫色の雫が降り注ぐ。


〈ありがとう……さよなら……〉


 涙で掠れたような、少女の声。

 トーマは不思議そうに、振り返った。




                        ~ Fin ~





Continue to 「Ikoku rokkei」・・・






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


読んでいただき、ありがとうございました。

よろしければ、こちらにもお寄りいただけると嬉しいです。


『想い紡ぐ旅人』※同一世界観の「テスラ」の物語

 → https://kakuyomu.jp/works/1177354054886866619

『漆黒の昔方 ~俺のすべてが、此処に在る~』※同一世界観の「ジャスラ」の物語

 → https://kakuyomu.jp/works/1177354054889720626


そして物語は、『旅人たちの錯綜』第2部『異国六景』へと続きます。

 → https://kakuyomu.jp/works/1177354054891791115

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あの夏の日に ~俺たちの透明な二週間~ 加瀬優妃 @kaseyou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ