眼帯の男 #3

  眼帯の男に案内されたのは海岸の横穴だった。この横穴に入って驚いたのは男の持ち込んだ物資の少なさだ。ここには1つのポーチしかない。


「運び込んだ物資はそれだけなのか?」


 その疑問にさも当然というふうに男は「そうだ」と答える。その彼が今身につけている装備品ですら、頭部に暗視装置と両肩にナイフ等の手持ち武器、あとは腰に無線機と拳銃のみという、徹底した軽装ぶりだ。


「その医療ポーチも暗視装置と一緒に再潜入時に持ち込んだものだ。潜入は隠密性と迅速性が命だからな。余計なものは持ち込まない」

「じゃあ、日中会った時に持ち込んだのは身につけていた物だけだったのか……」


 男はこちらの驚愕に苦笑いすると「さすがに爆薬は持ち込んださ」と付け足した。


「依頼は対空銃座の破壊だったからな」


 そうだ。先程男は依頼主がアメリカ軍だと言った。そこから確認しなければ。


「依頼主はアメリカだと、あんたは言ったな。具体的に答えてもらえないか」

「ん、依頼主か?基地に人員を派遣していた海兵隊からだ」


 基地を守る海兵隊が基地防御の破壊を依頼?


「俺が基地施設を破壊したのは知っているな?」

「ああ……まさか1人で?」

「潜入だぞ、当然だろう」


 この男は基地施設の対空火器群をたったの1人で無力化したのか。それも発見されることなく。CIAのエージェントか何かか?


「話を続ける前に聞きたいことは?」

「なら、捕虜の回収も依頼のうちなのか?」

「違う。生きているのが分かったから、ついでにやった」


 破壊のついでに捕虜の回収までやったのか。そして、私は依頼のついでに投げ飛ばされたのか。


「話を戻すぞ。いいな?よし、依頼主は基地の表面上の管理者である海兵隊から。それで本来なら対空兵装を無力化した直後に海兵隊の強襲部隊がヘリで乗り込む手筈だった」

「何のために?」

「基地を海兵隊の指揮下に収めるためだ」


 当初この基地は海兵隊と例の組織の共同管理という方針だったらしい。だが、気づけば組織側の人間しか関われない基地に変化していた。なので、海兵隊首脳部は基地の強制調査をするべく制圧を目論んだのだ。


「基地の隊員は組織側の人間なのか?」

「そういう者もいただろう。だから海兵隊単体での密偵は失敗していた。だが、ほとんどの隊員は何も知らされずに配属されただけだろう。自分の配属先が海兵隊の管轄外とは知らずにな」


 私の案内役だった強面の曹長はどちら側だったのだろう。




*CIA アメリカ中央情報局。大統領直属の情報機関とされており、アメリカの諜報組織として最も知名度が高い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ロイヤル・ハリヒア 八雲ヨシツネ @Colindale

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ