眼帯の男 #2
「あんたは日中の侵入者……!」
「おう、一目で分かるか。まぁ、この格好だからな」
間違いない。基地で遭遇した侵入者だ。
一瞬の出来事で眼帯とダイビングスーツぐらいしかよく覚えていないが、こうして再び向かい合えば目の前の男があの時の侵入者だと分かる。何より私の体が一度敗北した相手だと警告を発している。
「で、お前は俺が投げ飛ばした奴で間違いなさそうだな」
「ああ、その通り。手も足も出なかった」
「そんなことはない。良いセンスだ。まだまだ上達するキレがあった」
素直に褒められているらしい。だが、会話の最中も全く隙がない。彼の周囲だけ時間が止まっているかのように空気が張り詰めている。次元が違う相手とはこのことか。日中は我ながらよく抵抗したのかもしれない。
さて、隙がない相手にどうしたものか。そもそも男は味方だと言って近づいてきたが、日中は敵だった。基地空襲直前の遭遇を考えると、この基地を処分した国際的諜報組織の一員である可能性は拭えない。スパイが相手に味方だと伝えて近づくのは常套手段だ。
「なぁ、今島をうろついている連中はあんたの仲間じゃないのか?」
その疑問に男は「違う」と即答した。
「俺が依頼を受けたのはアメリカ軍からだ。連中じゃない」
「いや、軍が自前の基地に潜入工作員を送ったというのはひどいジョークだぞ」
「そういうお前はどうなんだ?」
いわれてみれば私もそうか。おかげで酷いザマだ。
「同じ穴の
男が私に黙るようジェスチャーをする。その直後、爆音と共に基地からヘリがゆっくりとこちらへ向かってくる。
ヘリはそのまま私たちの真上を通り過ぎていった。
「奴らはこの基地を裏で管理していた連中の部隊だ」
「あんたは以前から知っていたのか?」
「まぁ……な。お前は何か知っているのか?」
男もこの基地にアメリカ軍以外が関わっていることを知っている。ならば、重要なワードを言った方が私自身のためになる。
「空襲の際に基地司令官から国際的な諜報組織が絡んでいることを聞いた。特に空襲は“亡霊”と呼ばれる奴の仕業だと言っていたな」
その言葉を聞いた男の空気が変わった。少なくとも今までは周囲の警戒もしながら会話をしていたが、今この瞬間からはこちらにすべての意識が向いているかのようだ。だが、敵意や緊張感などは感じない。少し違う。
「それを何としてでもお前の上司に伝えるんだ。関係者以外の軍人が知っているのは強みになる。お前を死なせるわけにはいかない」
男の口ぶりからして私は重要なカードを引き当てたらしい。
「とりあえず場所を変えよう。海岸に良い場所がある」
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