眼帯の男

 私が意識を取り戻したのは夜になってからだった。

 体に痛みはあるが、幸運にも落ちた場所が川岸の茂みで助かったらしい。その中で腰近くまで泥濘でいねいに埋まっていたが、これが着地の衝撃を吸収してくれたのだろう。さらに茂みの枝が服に引っかかって、川岸の泥に溺れるのを今まで奇跡的に防いでくれていたようだ。

 とりあえず川から上がろうとしたが、散発的な銃声が聞こえて動きを止める。島の中で戦闘が発生している。それに耳を澄ませばヘリの飛行音も聞こえる。


「掃除に時間がかかるな」


 突然声がして橋を見上げる。この角度からでは分からないが橋の上に誰かいる。


「了解……。“隊長”、今の交戦で最後のようです」

「そうか。あとは処理だけだな」


 他にも誰かいるらしく、別の声もする。最初の声の主は“隊長”と呼ばれているあたり、小隊や部隊の責任者か。どちらも流暢な英語で会話しているが内容は不穏だ。今は下手に動かず様子を伺うしかない。幸い私は周囲すらよく分からないほど真っ暗な茂みの中だ。もし彼らが橋の下を覗き込んでも、人を探すつもりで照明を向けない限りは人がいるのは分からないだろう。


「そろそろ戻りますか?」

「ああ、そうしよう。それにしても待避壕を基地から離しておいたのは正解だった。上級士官の死体は確認しないとな」


 声の主である“隊長”はひどくさっぱりした口調でそれを言い放った。

 待避壕を離しておいた?つまり時のために用意された待避壕だったのか?彼らが基地司令の言っていた諜報組織に属する者たちなら、連中は米軍の基地建設に関わっている一方で、有事の際には基地を守備する兵士ごと不都合な証拠を消し去る準備もしていたことになる。見つかるわけにはいかない。

 

 橋から基地の方へ複数の足音が去った後も、しばらく私は周囲の音や気配に神経を尖らせ人がいないのを確認してから這い上がった。

 周囲は依然危険で、道路など開けた場所には出られない。なので川岸からしばらく続く茂み伝いに見晴らしのよい場所まで移動する。そこからは待避壕らしき人工物から火の手が上がっているのがよく見える。また、基地の方では炎に照らされて人影が動いているのが分かるが、それらは明らかに基地の残骸を破壊したり燃やしているので敵と見て間違いないだろう。


 この状況下でどう動くべきか……


 

「静かに、味方だ」


 突然、肩に手が置かれる。

 振り返ると眼帯姿の男がいた。

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