第13話

 ――が欲しいか。

 ――力が欲しいか。

 ――強さが欲しいか。

 

 近くにいくつかある洞窟の一つにベッドをまたデデンと並べて寝入っていた私達――違う、私の耳に、その声は入って来た。

 声って言っても耳に響くんじゃなくて頭に響く感じ。低さも高さもないそれに戸惑っていると。ひゅうっと洞窟の奥に向かって風が吹いて行った。

 私はローブだけ被って、パジャマ姿でその方向に向かう。入り組んでいたけれど、風に導かれる様に私はそっちに向かっていた。

 そして突き当り。

 少し開けた空間。

 そこには輝く玉が浮かんでいた。


 両手に収まる程度だろうか。何だか圧力を感じてはあっと籠った息を出すと、流石に冷えるのか息が白い。

 玉は睥睨する瞳のようでもあった。水色に発光していて、威圧感を覚えると、ふん、と鼻を鳴らすような声が響く。

『やっと我が声が聞こえる者が現れたと思ったが、小娘とはな。小娘、貴様何をそんなに焦っている?』

「え、」

『我の声が聞こえるほどに力を欲して、強さを欲して、どうするつもりだ?』

「私は――」

 私は。

 足手纏いになりたくない。その為の力が欲しい。強さが欲しい。

 何でも良いから、何だって差し出すから、この旅に悔いを残したくない。

 フン。とまた玉は揺らぐ。

『良いだろうテミス。アル・テミス。月の仔よ。お前に強さを与えよう。それがどんなものなのか、何が起こるのかは我は知らない。感知しない。お前の裁量で我が力、扱ってみるが良い』

「え、ええ? って言うか貴方何者っ」

『我はアーケロン。人に力を与える魔導石の一石。力は己で確認しろ――』

 ひゅんっと飛んできたアーケロンは、私の胸の辺りにずぶずぶと入って来た。感覚はない、元からエネルギー体だったのかもしれない。それにしても何でこんなものが? 魔導石。お父さん達の資料にもあったから覚えてる。月で見つかった、莫大な能力を持つエネルギー体。星の力を手にしていると言われ、複数確認されるも逃げるように姿を消し、現在も捜索中――とかなんとか。

 ……。

 何かえらいもん手に入れてしまった? 私。


「どうしたテミス」

「え?」

「顔色が悪い。昨日の夜中に洞窟の奥に行ってから、様子も妙だ」

「え。えーと」

 嘘が吐けない心配の眼に、私はティラから目をそらしてしまう。妙なもんと合体してしまったと言ったらまた怒られるだろうなあ。ティラは私に戦力を持って欲しくないみたいだから。

「身体が冷えたのかな、風邪でも引きかかってるのかも。ご飯食べたらまたちょっと横になるよ」

「そうした方が良い。発汗量が増した」

 さらりと言われてエレメント・ソーサラーの感知範囲の広さに驚かされる。でもこの力のことは解らないんだから、内部向きではない、のかな? 一体何を、と問い詰められていたらやばかった。極力嘘は吐きたくない。ステちゃんから貰ったボウガンの事にしても。あの後きっちりお代は支払ったしね、存外しっかりしてる子だわ。矢だけ残っても仕方ないからまあ妥当な所だったんだろうけれど。

「ほんとにそれだけかな?」

 突っ込んできたのはパラだ。この人もこの人で内面が良く解らないから――プッテちゃんマニアな事しか――嘘は吐きにくい。

 でも相談するなら博識そうなこの人だよなあ。思って私は朝食のパニーニのサンドに噛み付く。

 うん、ほんと普通の味だ。何でだろう。メガは相変わらずだねえと言ってステちゃんに小柄投げられそうになってるけど、それはまあ置いといて。

「まさか洞窟の奥に魔導石が潜んでいたとはねえ……」

 洞窟の中。

 私はベッドに座って、立っているパラを見上げ、その呆れたような顔に居心地悪くなってしまう。

「ティラのエレメント・ソーサラーは魔導石の欠片を微量に使用しているからブラックボックスだらけだって聞いたことがあるけれど、まさかそれの一つが君と合体するとは思わなかったよ。きっとこの洞窟に潜みながら、自分の目的と合致する相手をずっと探してたんだろうね。それが奇しくも君だった、か。ティラに教えなかったのは上策だよ。あいつ怒り狂うだろうからね、君にそんな力が渡ってしまったと知ったら」

「アーケロン、って名乗ってました」

「水だね。水の獣だ。四体が揃うと星の力を引き出す、って言われてるけれど……」

 きゅむー、と眠いのか具合が悪いのか解らない様子のキュムキュムを撫でる。朝もあまり食が進まない様子だったし、寝不足なんだろうか。やっぱり私のせいで。

「取り敢えずそのキメラの世話は僕がした方が良さそうだね。属性と相性が悪いのか、君の近くにいると消耗するようだ」

「えっそうなのキュムキュム!? どうしよう、私一生この身体じゃないよね!? キュムキュムと触れ合えないなんてやだよ私!」

「しぃ。声が大きい。微力ながら火の属性を持ってるから、当てられてるだけだよ。必要以上の接触は避けるべきだけれどね」

「はい……」

「まあ今日は具合が悪いことにしておいて、明日からはいつも通り振る舞った方が良いね。特にティラの前では」

「はい」

「素直でよろしい」

 先生の顔をしていたパラの言葉に、はあっと溜息が出る。まさかキュムキュムに害があるなんて、聞いてないよ私。だったら力なんかいらないから早く出て行って欲しい。でもティラ達の足手纏いにはなりたくなくて、あーもう。

 ばふっと毛布をかぶって、眼を閉じる。そうしているだけでも休息になると教えてくれたのはステちゃんだ。彼女の故郷もエキゾチックで面白そうだな、なんて他所事を考える。いつかは行ってみたい東方の地。でもどうやってその独立性を、この星で保っているんだろう。交わらず避け合う、みたいなことが。まさかみんなニンジャだとか? ないない、そりゃーない。文化形態が違いすぎて迎合できなかったのかな、お互い。ステちゃんの育った場所では子供は全部一緒くたに育てるって言ってたし。だから親とかの感覚が薄い、とか。

 ちょっと寂しいけれど、合理的ではあるかな。思いながら私は瞼の裏の星をぱちぱちと見た。

 青い地球。

 プッテちゃんのツアーが終わるまでは、十三日。

 その間にこっそり、力の使い道は模索しておこう。

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