第4話

 今日は約束の土曜日です。

 あかりは、さやかの家まで一人で歩きました。ちょっと迷いかけたけれど、もう大丈夫。ちゃんとさやかの家に着いたのです。


「こんにちはー」

「はーい。あかりちゃん、いらっしゃい! 迷わなかった?」

 さやかが出むかえてくれました。

「うん、大丈夫だったよ」

「どうぞ、上がって」

「おじゃまします」


 この間の縁側の部屋で、おばあちゃんが待っていてくれました。

「こんにちは」

「こんにちは、あかりちゃん。いらっしゃい」


 あかりとさやかは、おばあちゃんにこの間買った毛糸を見せました。おばあちゃんは、この毛糸で編んだら、ふわふわのマフラーが出来ると言ってくれました。とても楽しみです。


 作り目を作って、編み始めます。数を数えながらゆっくりと。

 段が進むにつれて模様になるのが楽しくて、あかりは時間がたつのを忘れてしまいました。慣れてきたので、話しながら編むことが出来るようになっています。陸の話は面白いのです。

 うっかり目を落としてしまったりした時は、おばあちゃんが助けてくれました。


「あんまりこんをつめたら、体に悪いからねぇ。ここいらで、ひと休みしましようね」

 そう言って、おばあちゃんがおやつを持って来てくれました。もっと編みたいけれど、おやつも気になります。

 今日のおやつは、どら焼きと緑茶。ちょっぴり苦いお茶と、甘いどら焼きはとても美味しいのです。夢中になって食べていたあかりは、聞きたかったことを思い出しました。


「おばあちゃん。毛糸って何で出来ているの?」

「毛糸かい? 羊の毛からできているんだよ」

「羊?」

「ちょっと待ってて!」と、さやかが何かを取りに行きました。戻って来た手には、大きな本があります。

「これが羊だよ」と、本を開いて写真を見せてくれました。


 これが羊? 見たことがある姿をしていました。


 海にいる綿魚わたうおににているのです。綿魚は尾があって、海を泳ぐ事が出来ます。そして、白いふわふわの毛が生えているのです。毛の下にはうろこが生えているのを、あかりは知っています。


 その綿魚は海の底の、短い海藻が生えた牧場で暮らしています。海藻がないと生きていけないと、お父さんに教えてもらいました。泳ぐ事が苦手で、四本のひれで歩くように、海底を移動します。

 秋になると毛が抜けるので、ブラシできれいにとかしてあげるのです。抜けた毛は、集めて敷物に加工します。ふわふわの敷物の上に寝転がるのが、あかりは大好きでした。

 敷物のふわふわの手触りは、毛糸ににている気がします。


「羊の毛が、どうやったら毛糸になるの?」

「おばあちゃんも、あんまりくわしくはないんだよ」と前置きして、おばあちゃんは教えてくれました。


 まず、羊の毛を刈ります。刈った毛をきれいに洗い、色を付けます。乾いたら、ほぐしていくのです。ほぐす時に、毛についたごみをきれいにとります。後は、機械できれいにつむぐのだそうです。


 おばあちゃんの話を聞いて、あかりは思いました。

 もしかしたら、綿魚の毛で毛糸が作れるかも知らない。帰ったら、お母さんに相談しようと決めました。


 おやつの後は、また三人でお話しをしながら、編み物を続けました。あかりのマフラーは、15センチほどの長さになっています。さやかは20センチです。

 おばあちゃんは、ひざ掛けを編んでいます。


 楽しい時間って、どうしてこんなに早く過ぎていくのでしょう。夕方になったので、あかりは帰らなくてはなりません。

「おじゃましました。さやかちゃん、おばあちゃん、ありがとう」

「さよなら、あかりちゃん。また来週おいでね。待っているよ」


 帰りも一人です。あかりは道を間違えないように確認しながら、ゆっくり帰りました。

 海に着くと、岩陰いわかげかくれます。大事な編み物をお花のカバンにしっかりとしまいました。もう一度誰も見ていないことを確認して、海の洋服に着替えます。脱いだスカートと靴、靴下もカバンにかたづけました。

 そして、そっと海に潜ります。


「お母さん、ただいま!」

「お帰りなさい。今日はどうだったの?」

 お母さんは、台所で夕食を作っていました。お母さんのとなりに行って、今日のことをたくさん話しました。一番聞いてほしかった羊の話も。

「毛糸って、毛から出来ていたの? 綿魚の毛で毛糸が出来たら、ステキよね。一緒に試してみましょう」


 明日がとっても楽しみです。

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