vs『節制』(前編)

「フーダニットから聞いた顛末だが、どうにも、釈然としねえな……」


 既にフーダニットの元へ行き、全員が『ハンター』としての身分を得た後。

 フーダニットから、“リブート”に関する、知る限りの情報を提供して貰っていた。


「既に把握しているのは……」


 龍野達が把握済みの情報は、


『一切の発言を信じない事』

『「ハンター」のみが攻略可能である事』

『「禁忌」と称されている事』

『「破壊と再生」によって利益を得ている事』

『数ヶ月で文明を衰退させられる事』

『「P・W・カンパニー」とは別枠である事』

『“カンパニー”最初期から存在していた事』

『末端の存在を優先して攻撃する事(予測事項)』

『和解不可能である事』

『万一“リブート”を殺しきれなかった場合、“カンパニー”から攻撃される事』

『全員が謎の存在を崇拝している事』


 上記十一点である。


 しかし、これだけの情報であっても、龍野達が把握しているのは“公開情報”――即ち「知っていて当然」というレベルのものだ。


「やっぱ、百聞は一見に如かず、ってな」


 龍野が呟きながら、エリア“ワイルドアームズ”に足を踏み入れる。

 他の6機も、続けて“ワイルドアームズ”に侵入した。


「“アレ”がフーダニットが把握している“リブート”の情報の一つか」


 龍野達が最大望遠で視認しているのは、青黒い装甲の機体だ。

 “ワイルドアームズ”内のありとあらゆるものを、現在進行形で破壊していたのだ。


「俺達で止めるぞ」


 龍野達は魔力や霊力の消費を抑える為、地上を走って移動した。


     *


 話は前後する。

 フーダニットから“リブート”の情報を集め、作戦会議を開いていた時だ。


「龍野さん、20種類とは結構な数ですね」

「しかも、そのどれもが“生身の人間には”手の付けようがありませんわ」


 ブレイバの言葉に合わせ、ブランシュが補足する。


「ああ。

 手当たり次第に仕掛けても、被害はすぐには収まらない。

 だから、出来れば全“ハンター”を収集したいんだが……」

「難しいと思いますわ。

 それに、そうしている間にも、被害は広まるはずです」


 龍野の提案は、グレイスによって否定される。


「だろうな、グレイス殿下。仕方がないから、当面は俺達黒龍騎士団だけで動く」

「そして、俺達は俺達の狙えるものを狙う。俺達の鋼鉄人形に近いサイズの敵を、優先してな。

 そうだろ、団長?」

「ああ。ゼル」


 ゼルギアスが示した方針に、龍野が賛同した。

 それを皮切りに、他の団員も頷く。


「では、我々は全戦力で“リブート”を潰す、か」


 まとめたのはヴェルディオだ。


「ちょっと待って!」

「7機いるんだ、手分けすれば――」


 抗議の声がいくらか上がる。


「落ち着け!」


 が、龍野が一喝して黙らせた。


「ヴェル、『全戦力』の理由を挙げてみな」

「ああ。

『敵の戦力が未知数だから』だ」


 その言葉に、抗議が引っ込んだ。


「決まりだ。

 確かに即応性は低下するが、それでも“確実に仕留められる”。

 不安定な現状だ、少しでも確実性が欲しい。


 頼む、力を貸してくれ」


 龍野の頼みに、全員が敬礼して返した。

 かくして、黒龍騎士団の方針は「全高10m級の“リブート”を優先して狙う」運びとなった。


     *


「んあ?」


 突如として響いた足音に、青黒の機体が首を向ける。


「誰だよ、てめえら?」


 が響いた事に対し、黒龍騎士団の何人かは動揺する。

 特に男性陣がそうだ。


 だが、龍野はヴァイスに諭され、平静を取り戻した。


「“リブート”の一員に間違いないな」


 問いを聞いた途端、女性が答える。


「そうだよ。だから何だってんだよ?」


 返された問いを受け取った龍野は、無表情に宣告した。


「お前たち“リブート”を殲滅する」


 その言葉と同時に、既に武器を構えていた6機の鋼鉄人形が、青黒い機体に向けてレーザーを放つ。

 遅れて、龍野も“ランフォ・ルーザ(ドライ)”に剣を構えさせ、同様に光条レーザーを放った。


 十数秒に渡る、苛烈な攻撃。


ってぇなァ、オイ!

 もう許さねえぞ、テメエら! オラ、“マオウ”、動け!」


 しかし、女声が帰ってきた。

 おまけに、青黒い機体――マオウ――には傷一つ付いていない。


「このリサ様を怒らせたらよぉ、死ぬのがオチなんだよ!」


 よく見ると、マオウは巨大な盾を構えていた。

 一部が溶融しているのは、光条レーザーを防御した結果だ。


「だからぁ――さっさと死ねッ!」


 マオウがレールライフルを構え、黒龍騎士団のいる辺りの空間に撃ち込む。


「全機散開!」


 龍野の怒号が響くと同時に、7機が一斉に散らばった。


 かくして、序章の幕は開けたのである――。

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