vs『節制』(後編)

『挟撃するぞ!

 俺達とブレイバ、グレイス、ハルトは右腕側を狙え!

 残りは左腕側から仕掛けろ!』

『了解!』


 レールガンの嵐を避けつつ、龍野が念話で作戦を指示する。

 黒龍騎士団の機体の機動性は高く、マオウが突っ立っている内に左右を挟んだ。


『よし!

 全機、射撃開始!』


 左右を囲み、7機が一斉射撃を行う。


あめェーんだよッ!」


 と、リサの声が響いた。

 7機が射撃する直前に、背面のロケットパックが火を噴いたのだ。


「潰れてろッ!」


 さらにマオウの両手首から、無数の物体がばら撒かれる。


「射撃中止、退避!」


 7機が退避すると同時に、これまた無数の爆発が起きた。


(鋼鉄人形の障壁で防げるが、問題はそっちじゃねえようだな……!)


 “ワイルドアームズ”に無数に存在するプラスチックの砂塵が、カーテンを作り出した。

 射撃を止めていなければ、同士討ちをしていた可能性がある。


「どこ見てんだァ雑魚ッ!」


 と、リサの怒号が聞こえた刹那。


「ぐっ!?」


 マオウが“ランフォ・ルーザ(ドライ)”の障壁を突破し、いつの間にか持ち替えていたチェーンソードによる斬撃を仕掛けていた。

 咄嗟に剣で防御していたのは、龍野に蓄積されていた戦闘経験によるものであろう。


「オラァ、千切れっちまいな!」

「そうは、いくか……!(デザイアを彷彿ほうふつとさせるぜ、この刀……!)」


 近接戦闘用に極限までチューンアップされた“ランフォ・ルーザ(ドライ)”の出力をもってしても、逆転には至らない。


「この、しぶといんだよ……!」


 しかし、拮抗するレベルにまでは持って行けた。


「おぉらぁ……ッ!」


 盾で押し出し、ようやく押し返す。


「クソッ、クソが!

 焼け落ちろ!」


 業を煮やしたマオウが、ミサイルを連射する。

 その数、およそ50本――


「させるかよ!」

「無論だ!」


 ゼルギアスとヴェルディオが、率先してミサイルを撃ち落とす。

 内蔵機銃で弾丸を、これでもかとばかりにばら撒き、約半分を一瞬で炎にした。

 勿論、他の4機も迎撃に当たっている。


「助かるぜ、皆……。

 おら、持って行け!」


 マオウと鍔迫り合いを繰り広げていた“ランフォ・ルーザ(ドライ)”の胸部装甲が、二か所だけ、小さく開く。


「あん?」


 龍野の意図を掴みかねたリサは、“ランフォ・ルーザ(ドライ)”に拮抗し続け――

 が、しかし。


「何っだッこれ!?」

「クソ、硬いな……!」


 至近距離で内蔵機関砲の25mm砲弾を100発以上浴びたのにも関わらず、マオウの胸部にいるリサの息の根を止めるには至らなかった。


「手品はしまいかよ!?」


 と、マオウが“ランフォ・ルーザ(ドライ)”を蹴飛ばす。

 あまりの衝撃に、中の龍野、ヴァイス、ディノは思わず、悲鳴を上げた。


「ぐっ……!」

「きゃぁっ……!」


 すぐさま体制を立て直すが、マオウがチェーンソードを振りかぶっていて――


「させないよ!」


 ブレイバがシールドバッシュでマオウを弾き飛ばし、転倒した所で右の肩関節を切り裂く。

 そのまま左の肩関節も盾で潰し、マオウの両腕を封じた。


「大丈夫ですか、龍野さん?」

「ああ……何とか、な」


 “ランフォ・ルーザ(ドライ)”が、“リナリア・シュヴァルツリッター(ブレイバ機)”の助けを得て起き上がる。


 と、龍野はある“異変”に気づいた。


くちばしが……空いてる、ぞ?」


 それだけではない。

 嘴部分に、赤い光が集中していた。


「こうなったら、てめえだけでも道連れだッ……!」


 両腕を奪われたマオウがゆっくりと起き上がり、“ランフォ・ルーザ(ドライ)”に狙いを定める。


「ぐっ……!

 逃げろ、皆……!」


 “ランフォ・ルーザ(ドライ)”も逃げようとするが、それよりも早く――


「お下がりください、団長!」


 リナリア・ゼスティアーゼが、マオウの頭部を斬り飛ばした。


「なっ――」


 今度こそ、リサの絶句が聞こえた。

 斬り飛ばされた頭部は、ただ、地面に転がった。


「終わりです」


 そして、リナリア・ゼスティアーゼが剝き出しになったマオウの胸部――否、リサ=クッコロ本体に、盾の先端を突き立てる。

 そのまま霊力弾を連射し、息の根を止めた。


     *


「済まん……お陰で助かった」

「どういたしまして、団長。団長や副団長には、普段からお世話になっておりますから」


 龍野からのお礼を、グレイスは素直に受け取った。


「さて……次、行くか」

「ええ」


 “ランフォ・ルーザ(ドライ)”が先頭を歩き、次の“リブート”を探す。


 戦場には、マオウの残骸だけが、ぽつんと残っていただけであった。


 かくして、黒龍騎士団は“リブート”の一つ、『節制』を撃破せしめたのである。

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