第12話 What's wrong with me?



一週間後、家に届いた新しい制服を身にまとったわたしは、記念すべき初登校を迎えていた。


わたしは日本とフランスのハーフという設定で、名前は散々悩んだ結果、如月 マリアを名乗る事になった。


この名前は、安藤先生と母親が、5時間に及ぶ会議を行った結果、決定された。


久々に歩く通学路、ここは懐かしさに思いっきり浸りたいとこだが、わたしは全然落ち着かない。初めての制服スカートも、妹に一週間で叩き込まれた清楚な歩き方も、似合っているし、マスターしたはずなのに...同じ通学路を歩き、同じ学校へ向かっている同じ制服を着ている生徒がみんな、


めっちゃ見てくりゅぅぅぅぅぅぅぅ!


そして、何かわたしのことを噂しているようなのだ。


俺が横を通り過ぎると足を止めてこちらを見てくる男子たちも、珍しいものでも見たような顔をする女子も、今までこんな反応をされた事がなかった俺からすれば大混乱だ。


わたし、なんか変な所あるのかな。


転校初日から、恥ずかしいミスなんて、なにそれ最悪!!

俺は必死に自分の変なところを探し始める。


しかし家を出る前に、妹による厳しい検問が入った為、いくら探しても変なところが見つかるはずもなく、色々考えながら恥ずかしくしているうちに、気づけば学校に到着していた。


学校に着いたわたしは、安藤先生の待つ保健室に向かった。


コンコンとノックし、ガラリと引き戸を開けると、そこには待ち構えたようにわたしにカメラを構えた安藤先生がいた。


「ちょ、何やってるんで」


「初登校記念だよ。ハイ、チーズ」


パシャッ


驚いたわたしの顔を隠す必死の抵抗も虚しく、一瞬のうちに写真を撮られてしまった。まぁ、別にいいけど。(もう慣れた)


わたしは諦めた顔をして先生の方を向き直る。


すると先生はカメラからSDカードを抜き取り


「この写真は永久保存フォルダにっと。」


とパソコンにぶっ刺している最中だった。

みんな!ごめん!さっきの「別にいいけど」は取り消す!


「おい...」


わたしはそう言うと先生に飛びかかった。

深い深淵のオーラをまとって


「どうしたの?マリアちゃ」


先生が気がついた時にはもう先生の柔らかい体は押し倒され、わたしのくすぐりの驚異に晒されていた。


「キャハハハハ!やめて、ハッハッハハハハ脇はダメ、脇はダメ!!ハハハハキャッハハハハ」


ガラガラ


「ふぇ?」「ふぃ?」


突然のドアの音にわたしたち2人は同時に振り返った。



するとそこには、男子生徒が1名。たぶん、武井だったかな。


3秒ほど時間が止まったように静止すると彼は

「えっと、、、なんでもないです。」


と少し赤い顔で見なかったことにしようと言わんばかりの声で言いながらドアを


ガシャン


と閉めた。

あまりの驚きに先生は数秒口をぽかんと開けてぼーっとしていたが、突然我に帰り


「ちょっと待ってーーー!!!」


といつの間にか武井を追いかけに行った。


先生は、どちらかと言うとクール系のキャラを学校では演じている。そんな先生が女子生徒とじゃれあっていたなんて噂がたてば、先生的に大問題なんだろう。


先生は数分後、戦に出てきた侍のような顔をして帰ってきた。


「とりあえず、、、保健医の尊厳は守ってきたわ....」


「おつかれさん」


もうこれ以上つっこむのも面倒なのでわたしがねぎらいの言葉をかけると


「ありがとぉー」


と言いながらジュポン!といつもの美人な顔に戻った。


キーンコーンカーンコーン


お馴染みのチャイムが始業の五分前を伝える。


「じゃ、行こっか、新しいクラス。」


先生はそういうと、一緒に職員室の新しい担任の席まで案内してくれた。


そこに座っていたのはすらっと長い足に綺麗に整えられた眉、男らしいキリッとした目を持ついわゆるイケメンの御坂 春樹先生。机に肘をついた彼はもう一種の芸術作品のようだ。

その容貌により去年他校から転属されて来た時には多くの女子生徒からストーカーレベルの尾行をされていたという。


すると


「君が如月 マリアさんだね。僕は御坂 春樹、今日から君の担任だ。教科は英語を担当している。これから1年間よろしくね。」


と爽やかな笑顔で手を差し伸べてきた。


わたしは御坂先生の手を握り返し


「よろしくお願いします。」


と言う。御坂先生の手は細長く、握るだけで折れてしまいそうだった。


「うん、よろしく。ホームルームで紹介するから、自己紹介考えておいてね」


「はい!」


そう返事すると先生は出席簿を持って立ち上がり、


「じゃあ行こうか」


わたしに声をかけ、歩き出した。


職員室を出ると、長い廊下に差し掛かる。

誰もいない廊下に響く、先生と私の足音。新しい教室が近づいてくると言う期待感と緊張が込みあげてきた。


元男のわたしが、本物の女子に受け入れてもらえるだろうか


自分は、しっかり女の子を演じられているだろうか


そんな不安が込み上げてくる。今朝も周りから奇異の目で見られたばかりだ。


そんなことを考えているうちに、階段を2階分上り、自分の教室に着いていた。


「今日からここが、君のクラスだよ。」


先生はそう言うと、ちょっと待っててと私を待たせ、朝のホームルームを始めた。


教室の中からこもった声が聞こえてくる。


「今日、転校生が来ました。」


と先生が言い放つと、クラスはすごい盛り上がりを見せた。


「では紹介します。」


と言うと先生はスライドドアのすりガラス越しにこちらに手招きをした。


わたしはドアに手をかけ、ドキドキする心を抑えながら、ゆっくり開く。


そして、ゆっくりと綺麗な歩き方で中央へ躍り出る。


クラスの反応はやはり静かだ。やっぱり、わたしなんかじゃ転校生という期待にこたえられないよね。


まぁそんなことどうでもいいや。生まれ変わったようなこの姿で、この足で、前に進みたい。だから、自信を持って行こう。





「旭ヶ丘第1高校から来ました。如月 マリアです。あと半年ですが、皆さんと仲良くできれば嬉しいです。これから宜しくお願いします。」




私はハキハキと自己紹介をした
















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