エピローグ

死者は月影にせい

陽光ようこうに静けさを

妖花ようかに生を受け

聖剣の光は死者を天へ導く 太陽のもと

勇者の血が契約にのっとり聖剣の力を解き放つ



 感慨深く皐月はタペストリを見上げていた。


 聖剣伝説を描いたタペストリの前、たたずむ皐月の側にシャイアがそっと立つ。城に飾られたこのタペストリは館の物の二倍はありそうだ。


「どうしたの? 宴会は苦手?」

「・・・苦手って訳じゃないけど。豪華過ぎて・・・疲れちゃったかな」


 沢山の人々と煌びやかな服装に豪華な建物や貴重品の数々。庶民どころか病院世界の住人だった皐月には刺激が強すぎる気がした。


「もう少ししたら戻ろう。主賓が長く席を外すのはよくないから」

「そうね」


 王子シャイアが勇者となった祝いと、同じラシュワールの血を引くグロリアが勇者になった事を祝って、城をあげての大規模な宴が催されていた。


 3つのドラゴンの力を有する国は何処にもない。これは国としても大きな誉。


「僕らの結婚式はもう少し押さえた感じにしてもらおう」

「え?」


 にっこり微笑むシャイア。


「プロポーズされた覚えないですけど」

「ベストタイミングでするつもりだよ。すごくいい雰囲気の所でね」

「自信満々ね」


 シャイアが声をたてて笑う。


「僕らには有り余るほどの時間がある。じっくり待っても永遠に若い姿のまま美しい君を見ていられるし、愛の熟成には十分な時間だと思うよ」


「勇者って長生きなだけじゃなく、不老なのね」


 意味ありげな表情で頷くシャイア。


「ああ、今は若葉でもそのうち愛に変わるって思ってるわけ?」

「友情が愛情に変わることもあるだろ?」

「私たちに友情ってあったかなぁ?」


 ツンとした顔の皐月をシャイアが楽しそうに見つめている。


「僕はサツキに絆を感じてるよ」


 幾度もシャイアに助けられた。その胸で泣きもしたし、抱きしめられて安堵もした。少なからずシャイアに好意を持っていることを皐月も否定はしない。


「僕らは似たもの同士だと思う」

「そう?」

「僕も君も好奇心旺盛で、何でもやってみたいと思っている。そうだろう?」


 皐月はしばし考えて頷いた。


「2人でこの世界をあちこち見て回ろう。きっと楽しいよ」


 それは楽しそうだと思う。


「私が空間移動の力をしっかりコントロール出来るようになったら、シャイアを私の生まれた世界に連れて行ってあげる」


「それはわくわくする申し出だ! 新婚旅行で行こう」

「またそんな事を・・・」


 笑顔マックスでシャイアが皐月の手を取る。


「子供達もつれて行こう」

「ゾンビなんだから産める訳ないでしょぉ」


 人差し指を皐月の顔の前で揺らして、シャイアが学者みたいな雰囲気を作る。


「勇者になった君は永遠の命を持つ人ならざる存在になった。ゾンビから人へ戻っても人であって人ではない。つまり、僕が冥界のドラゴンにかけられた呪を違えず君と子を持つことが出来るんだよ」


 シャイアの話を聞いて皐月の目が座る。


「え? どうしたの?」


「私、子供製造機じゃ・・・ありませんッ!」

「そ・・・! そんな事は言ってないよ」

「言った」


 スタスタとベランダへ出て行く皐月をあたふたとシャイアが追う。


「なんでそうなる? 僕の子供を生んでくれ・・・とか、プロポーズでも使われる言葉だよ」


 シャイアに冷たく一瞥を投げる皐月。


(考えが古臭い! ってか、子供が欲しいだけじゃない!)


 皐月の腕を取ってシャイアが皐月の目を見つめる。


「子供は愛の結晶だよ」

(うわ~、また甘ったるい事言い出した)


「サツキ、君がグロリアの姿だから好きなんじゃない。僕はサツキが好きだよ、君のことが好きなんだ」


 皐月は真っ直ぐ見つめられて目のやり場に困る。


「プ、プロポーズは・・・少なくても4年。少なくても4年後にして」

「4年? 何故?」

「秘密」


 誰も結婚を止める人はいない。でも、皐月は結婚をするなら20歳を越えてからがいいと子供の頃から何となく思っていた。


 それに、4年も経てば日本へも上手に飛べるだろう。遠くからでも両親に報告がしたい、そう思う。


「よし、4年後だね。君の了承が得られて僕は幸せだよ」

「ん?」

「僕と結婚してくれるんだよね」


 皐月があんぐりと口を開けてシャイアを見た。


「そう言う意味じゃ・・・!」

「プロポーズ、忘れられないくらい素敵な演出を考えておくよ」

「今の違うから」

「恥ずかしがらなくていいんだよ」

「違うったら!」


 皐月の言葉に耳を貸さずシャイアが夢のような結婚式を思い描いて喋っている。


「私、ゾンビのままでいますからね! 人間に戻ったら病気になったりするでしょ? そんなの嫌だからゾンビでいる!」


「いいよ、千年くらいゾンビでいるかい? 僕はずっと君の側にいるよ、君を守り続けるよ」


「そんなストーカーみたいなのは嫌」

「ストーカー? それは何? 不思議な言葉を僕に教えて、君の知っている僕の知らない世界の事を教えて欲しい」


 ここまできたら皐月も根負けだ。夢見がちなポジティブはシャイアの方が上のように思える。大人に囲まれ城の外の世界を夢見ていた少年シャイアは、きっと皐月と似ていたに違いない。





 この世界も悪くない。


 新幹線も飛行機もないけれど、馬でゆっくり旅をしても時間を気にせず過ごせるだろう。日本でしたかった事で出来ないこともあるだろうが、地球で経験できないことも沢山ありそうな気がする。



「シャイア、結婚よりまず世界旅行が先よ! 沢山楽しまなきゃね!」



 したいことは全部する! 皐月は心の中で強く表明した。





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長い間お付き合い下さり有り難うございました。

拙い文章ではありますが、それでも皆さんに楽しんでいただけたなら嬉しく思います。


また次回作も出会えてもらえたら嬉しいです。


本当に、有り難うございました。m(_ _)m

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転生を願ったその先に ーーゾンビにも一寸の魂ーー 天猫 鳴 @amane_mei

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