第12話 お嬢様、いないいないばぁ、でございます。

 お嬢様のおぐしも伸びてきて、そろそろ肩に届くほどに。

 そうなると、当然ながら髪のセットが必須となります。で、女中たちの必然はやはり、縦ロールでした。予定調和でございますか?

 鏡台に向かって座らされたお嬢様を、肩越しに見つめていると。

「おじちゃん、だーれ?」

 いきなり鏡に向かって問いかけたお嬢様が、こちらを振り替えって。

「きらきらー?」

 鏡に向き直って。

「おじちゃん?」

 何度かくりかえしたら、女中の一人が切れましたでございます。

「動かないでございまし!」

 がっとお嬢様の頭をつかんで、固定してしまわれました。

 よほど痛かったのか、ぶわっと涙と嗚咽が……吹き上がる前に

介入するでございます。


 ……お嬢様!


 鏡との間に、割り込ませていただきました。

 するとお嬢様は泣き止んで、わたくしをじっと見つめました。いえ、正確にはわたくしとすぐ後ろの鏡を、ちらちらと見比べているようです。


「きらきらのおじちゃん、だーれ?」

 どうやらお嬢様から見ると、鏡に映ったわたくしは人の姿をしているようです。

 とりあえず、女中はお嬢様がじっとしているので、縦ロールに専念してくれています。


 ……わたくしは、山田太郎ともうします。お嬢様を見守る役目を任されておる者です。


「タローおじちゃん?」

 お嬢様は、にこっと微笑まれました。

 とても可愛らしくて、ほっこりいたします。


 居並ぶ女中たちの方も、縦ロールが完成して満足げです。

 お嬢様が鏡の中のわたくしに話しかけるのは、あまり気にならないようですが。

 そう言えば、前世お世話したお嬢様も、幼いころには鏡の中の空想のお友達とお話しされてました。わたくしの事も、それだと思われているのでしょう。

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