第11話 お嬢様、手の鳴る方へ、でございます。

 それから一年。

 お嬢様はすくすくと成長され、満二歳となられました。

 そして、女神さま公認の背後霊となったわたくしは、日々、お嬢様を見守る毎日でした。

 見守っていて何度か、お嬢様と視線が合うことがございました。しかし、お嬢様はもう猫語で話しかけては来ず、「あー、あー」と喃語をおっしゃるだけです。

 やはり、お嬢様にだけはわたくしが見えているようです。どんなふうに見えるのでしょうか? ちょっと気になりますが、お嬢様が言葉を覚えられるまで待つしかありません。

 それと、特に強く念じると、わたくしの言葉がお嬢様に伝わるようです。


 ……お嬢様!


 また一人で育児室から出ようとしたお嬢様を呼び止めると、お嬢様はわたくしの方を振り返りました。


「きらきら~きて~」

 最近は、いくつか言葉を発するようになられました。どうも、わたくしの事は光のようにお見えになっているようです。

 それと、わたくしを捕まえようとなさります。奇妙なもので、お嬢様の手の中に捕まってしまうと、わたくしの視点は動かせなくなるのです。

 そのため、お嬢様の手が届かない距離を保ちます。そうすれば、お嬢様が動けばわたくしの視点も動くので、わたくしから見て真後ろの方向に誘導できます。

 手の鳴る方へ、お嬢様。いえ、手はないのですが。


 そして、わたくしの視点の真後ろには。

 ぽすん、とお嬢様は奥様の膝にぶつかり、うたた寝をしていた奥様は目を覚まされました。

「あら、タニアちゃん」

「まんま~、きらきら~とって~」

 わたくしの事を捕まえてくれと、奥様にお願いしているようですが、他の方には見えないので仕方ありません。


 むずがるお嬢様ですが、奥様に抱き上げられてしばらくすると眠ってしまわれました。

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