第5話 痛いの痛いの、飛んでいくでございます。

 まことに申し訳ございません。前回のタイトルは間違いでした。正しくは、「お嬢様イコールわたくしでございます」ですね。

 ……いや、どなたに申し上げているやら。

 なにしろこれは、わたくしが頭の中でつぶやいているだけの独り言に過ぎなくて……ああ、頭すら有りませんでしたね。


 それはさておき。


 お嬢様の頭には、大きなタンコブが二つも。痛くないわけがないのですが、その体に入った……いえ、有り体に言えば「乗り移った」私には、痛みは感じません。しかし、早く治療した方が良いに決まっております。

 なので、母親のソフィア様がおられる部屋の中へ、必死に這い進むのでありました。


 見ればソフィア奥様は、ベビーベッドの側にある肘掛け椅子で熟睡なさっております。何とかして、起きていただきませんと。

 お嬢様はまだ、捕まり立ちはできていませんでしたが、緊急事態と言うことで、不肖わたくしめが挑戦してみます。

 奥様のスカートの裾をつかみ、ジリジリとよじ登ります。これで起きてくだされば良いのですが、眠っておられます。

 そしてついに、捕まり立ちに成功! と、思いきや、バランスを崩して後ろに転び、またもや後頭部をぶつけてしまいました。

 その瞬間、わたくしはお嬢様の身体からツルリと抜け出してしまいました。


 宙に放り出されたわたくしと、お嬢様の目が合いました。

 とたんに、お嬢様は大声で泣き始めました。そして、奥様も目を覚まして声をあげます。

「あらあら、タニアちゃん? まあ、ひどいコブ。痛かったわね」

 そして、お嬢様を抱き上げてコブの上に手をかざし、何かつぶやきます。


 はい、わたくしも小さな頃は母にやってもらいました。気休めですが。

 おや? 奥様の手から光が。そして、手を離すと、コブはきれいに消えて、お嬢様も泣き止みました。


 痛いのは本当に、飛んでいってしまったようでございます。

 

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