第4話 お嬢様、わたくしでございます

「にゃー」

 なぜ猫の鳴きまねを? お嬢様はまだ、猫を見たことないはずなのですが。


 どうも、わたくしの言葉と言うか、思いが伝わったとは思えません。お嬢様は元気よく、部屋から這い出して廊下を匍匐前進ほふくぜんしんしていきます。

 勇猛果敢は良いのですが、前方不注意が。

 あぁっ!

 ゴツン。

 廊下の隅に置かれていたテーブルの脚に、思いっきりヘッドバンク。その衝撃で、上に載っていた花瓶が落下して。

 ゴゴン!

 ヤバイです。流石にこれは命の危険が……。

 と、いきなり体が引き寄せられました。いや、体はないので、霊体でしょうか? ぐいぐいと前へ……お嬢様へ引き寄せられていきます。

 そして暗転。


 おや? 手足の感覚が。久しくなかったものです。手を握ったり開いたり。冷たい石のような感触。

 目を開いてみると、石造りの床が見えました。そして、転がっている花瓶。どうやら割れなかったようです。

 起き上がろうとして、手足が上手く動かせないことに気づきました。何と言うか、急に不器用になったような。そして、起き上がって座ったところ、その手足を見て、何が起こったかわかりました。


 どうやらわたくしは、お嬢様の身体に入ってしまったようです。手で触ると、おでこと後頭部に大きなタンコブができてました。ただ、痛みだけは感じません。

 とにもかくにも、治療が必要なはず。母親の下に戻るべきですね。


 上手く動かない手足を必死で動かして、出て来た戸口へと向かいます。


 そしてさらに、ここは異世界なのだと納得することになりました。

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