第24話

日は沈み、辺りは暗闇に包まれていく。

僕とジャンヌは火を囲むように座っていた。

「作戦までまだ時間があるな。少しだけ、聞いてもいいかな?ジル、君は確かある男を殺したいから…我々の仲間に入ったんだったな。その男の名を聞いてもいいか?」

「……ユージン。そいつの名前はユージンって名だよ。」

彼女のはユージンの名を聞くとピクッと体を反応させる。

その名に彼女は聞き覚えがあるようだ。

「…ユージン……君は彼を殺そうと…。」

「知っているのかい?」

「ああ、その男は何処からともなく現れ、私の部隊の殆どの兵士を殺していった。忘れもしないよ、あの時のことを。」

彼女は固く拳を握りしめる。

どうやら彼女もユージンを憎んでいるようだ。

「ジル、もし君があの男と戦うことを望んでいるのなら助言をしておこう。あの男に勝つ為には人間を捨てることだ。」

人間を捨てる?

彼女は何をいっているのだろう。

「人間を捨てるって…?」

「奴は化け物だ。私は奴を前に体が恐怖で震えてしまった。正直、今でも勝てる気はしない…それだけの相手だ。そんな相手と戦うのであれば…こちらも化け物になるしかない。」

彼女は我慢しているつもりなのだろう。

だけど、体の震えを隠しきれることができなかった。

彼女をここまで恐怖に陥れるユージン。

彼は一体、どうなってしまったのだろう。

もう僕の知っているユージンではないのは確かだ。

だがその方がやりやすい。

情けをかける手間がないから。

「僕なら大丈夫だ、もう覚悟は出来てる。それに。」


その為に僕も人間をやめたのだから。


「そうか、それならば心強い。君があの男を倒し、平穏な日々を取り戻せることを私も願っているよ。…そろそろ時間か…。ジル、行くぞ。」

奴らと戦う覚悟ならもうとっくに出来ている。

いよいよだ。

そして作戦の始まりの合図が拠点の中に響き出した。

ドォォンッと言う爆音と共に拠点の門が吹き飛ぶ音が聞こえる。

そして門が壊れたのと同時にピエール達の声が聞こえてくる。

「さぁてと、始めるとするかっ。」

拠点の入り口ではピエールと数十人の兵士が囮となって敵を相手にしていた。

そして僕達は裏から拠点を任されている隊長を討ち取る。

僕達はすぐにその場を移動し、拠点の裏から侵入を始めた。

兵士の殆どは皆、ピエール達に誘き出され、僕達の周りには誰もいなかった。

「よし、これなら自由に動ける。速やかに移動を始めるぞ。」

僕は彼女の言葉に頷くと腰につけていた剣に手を置く。

剣など一度も扱ったことなどないが、彼女達の前では失敗は許されない。

「行くぞ。」

僕達は低い姿勢で物陰を音を立てずに移動する。

入口の方からは叫び声や金属のぶつかり合う音がが聞こえてきた。

ピエールは無事なのだろうか。

そんなことを考えていると突然、目の前に手が現れ、僕はその場に立ち止まる。

彼女の方を見ると静かに奥を指差していた。

奥には二人の兵士が鎖で繋がれているのが見える。

どうやら彼等はジャンヌ達の仲間らしい。

だが遅かったようだ、二人は素手に息絶えていた。

周りに兵士がいないことを確認すると兵士の亡骸へと近づく。

二人の顔は形が変わっており、足や腕が…酷い状態になっていた。

どうやら二人は残酷な拷問にあっていたらしい。

「……。」

ジャンヌは何も言わずに二人のそばによるとそっと彼等の胸に手を置いた。

「ーーーーーー。」

彼女は二人に何かを喋っていたが聞き取ることができずにただジャンヌのことをじっと見ていることしかできない。

そして彼女は彼らの胸から手を離すと僕の方へと向き直す。

「行こう、彼らの為にも。」

彼女は平然を装っていたが、その目には激しい怒りを感じる。

僕は頷くと拳を固く握りしめた。

彼等の死を無駄にしないためにもここの拠点を手に入れなければならない。

そして僕達は先へと進む。

「まだーーーをーーできんーーーかっ!!!」

警戒しながら進んでいると大きな怒鳴り声が聞こえてくる。

どうやらこの近くに僕達の相手がいるようだ。

「今、全兵力を持って相手をしているのですが…かなりの手練れのようで…。」

「…はぁ…やれ。」

声が聞こえた次の瞬間、ヒィッという声とともに矢を放つ音が聞こえ、誰かが倒れる音が聞こえる。

「私は下らん言い訳を聞いているほど暇ではないのだ。次、またこの男のように下らんことを言った者は直ちに殺せ。」

ここを任されている男が無茶苦茶な男だということが今のでわかった。

僕はジャンヌと作戦通りに行動を始める。

作戦はこうだ。

ジャンヌが男の前に現れ、時間を稼いでいる間に僕がこの男を後ろから捕らえる。

簡単に行けばすぐに終わりそうだが、果たしてそう上手く行くものなのか。

「ジル、お前を信用しているからな。」

彼女はそう言うと男達の前へと向かった。

どうして彼女が僕のことをここまで信用しているのかは分からないが出来ることはやろう。

「んっ?貴様は…。」

テントの中から声が聞こえる。

どうやら彼女が中へと入って行ったようだ。

すぐに僕はナイフでテントに穴を開け中の様子を探る。

ここから見ると僕は今、拠点隊長の後ろにいるようだ。

隊長の周りには二人の兵士が立っているのが見え

、その前にジャンヌが立っていた。

「貴様は確か…ジャンヌと言う名の小娘だな。わざわざ私の前に来るとは…何をしに来た?」

「私はこの拠点を頂きに来た。直ちに降伏しろ。そうすれば命はとらん。」

矢を放つ音が聞こえ、ジャンヌの足元に矢が放たれる。

だが、彼女は微動だにせずに隊長をじっと睨みつけていた。

「降伏だと?それはお前達の方がするべきことだろう。たった一人で私の前に現れるとは正気の沙汰じゃないな。」

「誰が一人だと言った。それに私がこの手を挙げれば、すぐにでもお前を殺すことができる。」

「ほぅ、面白い。ならばその手を挙げてみせろ。」

彼女はチラッと僕の方を見ると右手を顔の辺りまで挙げる。

その瞬間、男の周りにいた兵士の胸元に矢が刺さり、倒れていった。

「なっ…。」

兵が倒れたの確認すると僕は男の背後へ周り、男の背中を蹴り倒し、男は無様に倒れていく。

「どっどう言うことだっ、なっ何が起きて…。」

「言っただろう?私は一人でここへ来たわけではないと。さて…お前をどうしてやろうか。」

「まっ待てっ、何が望みなんだっ。金貨か、それともっ「そんなものはいらない。」

ジャンヌはそう言うと剣を取り出し、男の腕へ突き刺した。

男の腕からは大量の血が流れ、男は気持ちの悪い叫び声を上げている。

「安心しろ…殺しはしないさ。お前には話してもらわなければいけないことが沢山あるからな。」

ジャンヌはそう言うと男に向かって微笑んでいた。

「ジャンヌっ、すぐにピエールの元へっ。」

「ああ…そうだな。さぁ、立て。」

僕は男の首元を掴むと男を無理矢理、立たせピエールの元まで歩かせる。

「皆の者、聞けっ。貴様らの隊長はこの通りだっ。貴様らは私達に敗北したのだっ。直ちに武器を捨てろっ。」

彼女は入り口で戦っていた兵士達へ大きな声で叫ぶ。

すると敵の兵士は仲間同士で顔を見合わせ、全員、武器を捨てた。

「やっと終わったか…少し時間がかかりすぎだぞ。」

「すまない、何人か兵士を奥へと向かわせてくれ、そこに仲間の亡骸がある。彼らを隠れ家へと運んでくれ。」

ピエールは頷くと仲間を何人か連れ、奥へと歩いていく。

「ふぅ、おつかれ。」

「ああ、素晴らしい弓の腕前だったぞ、ルイ。」

疲れた顔をしたルイがどこからともなく現れ、地面へと腰を下ろす。

矢のことについて僕は何も聞いていなかったがどうやら、あの矢はルイが放ったものらしい。

念には念を…と言うことなのかもしれない。

これでどうやら無事に僕達は一つの拠点を手に入れた。

なんともあっけない終わり方だった。

これもピエールやルイ達のおかげなのかもしれない。

この拠点には物資もあり、どうにかまだ戦えていけそうだ。

「ジル、初めてにしてはいい動きだった。これからもよろしく頼むぞ。」

ジャンヌはそう言うとルイと話を始めた。

だが、僕はあまり役に立った覚えがない。

やったことと言えばあの男に後ろから蹴りを入れただけだ。

これではダメだ。

もっと力をつけなければ、剣を教えてもらい、弓も教えてもらおう。

僕は戦場についてまだ何も知らなさすぎる。

これでは役に立てないどころかユージンを殺すこともできない。

彼女が化け物だと言っていたユージンを。

そんなことを考えていると後ろから気配を感じる。

「うっ…ううっうぁぁぁああっ!!!」

その瞬間、急に男が胸を押さえて倒れ出した。

「何だっ!!!」

周りにいた皆んながそのことに気づき、男の元へと集まる。

「はぁはぁはぁはぁっ…はぁ…。」

男は息をどんどん荒くし、そして動かなくなる。

男の胸元を見ると何かが刺さっている。

「何が起きてるんだよっ。ジャンヌっ、男の胸に矢がっ!!!」

「触っちゃダメだっ!!!」

ルイが矢を触ろうとするのを急いで僕は止めた。

いつ放たれたのかもわからない矢にはきっと毒が塗ってあるのだろう。

僕はその場から離れ、気配を感じた場所まで移動をするとそこには見慣れたものが地面に置かれていた。

「ジル、それは?」

落ちていたものを拾い上げる。

これには見覚えがある。

「これは僕が…作った義足だ。」

「何故、そんなものが…ジル…君は何かを隠しているんだろ?話してくれないか?」

「………。」

これはここにユージンがいたという証拠。

彼は僕等のことを見ていたのだ。

それでも拠点を襲っている時に助けようとはしなかった。

何かがおかしい。

まるで彼の掌の上で踊らされているみたいだ。

僕が考えている以上に彼は危険な存在なのかもしれない。

僕は彼の義足を手にしたまま、その場に立ち尽くしていた。

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例え何百年、何千年の月日が経ったとしても僕は君の隣にいる。 夏野海 @noa-3636

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